出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語01-2-191921/10霊主体従子 盲目の神使王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
王仁三郎の生家
あらすじ
 盲目の神使が地の高天原から王仁三郎をに迎えにくる。彼は恐怖心がないので、大蛇や毒蛇、狼の攻撃も平気である。使いは「大神の命によって迎えに来たが、地の高天原は悪魔が様々な妨害をしている」と言う。王仁三郎は火の中に飛び込むような気持ちで、高天原に向う。
名称
産土神 王仁三郎* ダイジヤ 毒蛇 盲目の男 狼
悪魔 氏神 大神
一の峠 神界 聖地 高天原 地の高天原 地獄 天然笛 幽界
 
本文    文字数=6029

第一九章 盲目の神使〔一九〕

 自分は、ある清い水の流れてゐる河の中へはいつて漁魚をしてゐた。さうすると河の岸に立つて、しきりに呼ぶ者がある。その男の顔を見ると、眼がほとんど閉がつて、一ツも見えない。ようこんな眼で危い河縁の土堤へこられたものだと思つた。
 ともかくも河から上つて、その使の側へ寄つて、
『私を呼びとどめたのは何の用か』
とたづねてみた。すると盲目の男は、
『私は地の高天原からのお使で、あなたをお迎ひに参つたものです』
と答へた。そこで自分は、
『いや、先だつて、神界を探険したが、あのやうな状態では、地の高天原も糞もあつたものではない。むしろ地獄の探険が優しである』
と答へた。そして、
『お前のやうな盲目の使を寄こすやうな神なら、きつと盲目の神であらう。盲目が眼明きの手をひいて、地獄の谷底へ落すやうなものであるから行かぬ』
と答へた。するとその使は、
『あなたは私の肉体を見てゐるのか、それとも霊を見てゐるのか。肉体は現存してゐるが、私の霊は尊いものである。しかも私の霊はすべての神に優れてゐる』
と誇り気にいふ。にはかに自分も行きたい気がして、産土神にむかつてお願ひをした。すると産土神が現はれて、両眼に涙をたたへたまひ、
『とも角も世界を救済する御用であるから、行つてくるがよかろう。しかし今度行つたら、容易に帰つてくることはできぬ。いろいろの艱難辛苦を嘗めなければならぬが、神から十分保護をするから、使について高天原へ上つてくれ。自分も産土神として名誉であるから』
と仰せられる。そこで自分はその使とともに、大橋を渡つて、だんだんと何とも知れぬ、焦つくやうな熱い空を、笠も着ず進んで行つた。すると俄にどういふわけか、空が真黒になつて、雷鳴轟きわたり、雨は車軸を流すがごとく降つてきた。真昼にもかかはらず一寸先も見えぬ真黒闇になつて、あまつさへ風ひどく一歩も進むことができぬ。そのとき心に思ふやう、……高天原から自分を迎ひに来たといふから、承知して一歩踏みだすとこの有様である。あるひはこの者がさういふて、自分に苦しみを与へるために連れて行くのではないか……といふ念が起つてきた。
 そこでまた天然笛を取りだして吹奏した。すると雨はカラリと晴れ、雷鳴は止み、空は明らかになつてきた。それから幾つも幾つも峠を縫つてすすむと、狭い道路にあたつて、種々の大蛇や毒蛇が横たはつてゐるのに出会うた。
 盲目の使は大蛇も平気でその上をドンドン踏みわたつて行く。また蝮がをつても狼が足元に噛みつきかかつても、平気で歩いてゐる。自分は眼が明いてゐるために、大蛇や、毒蛇や、狼に眼がつき、恐怖心がおこつて進むことを躊躇した。しかしながら盲目の使がするとほり踏んで行けば、別条はなからうと思ひ、怖々踏んで行つた。そのとき天の一方から誰いふとなく、
『眼の見えざる者は幸なり』
との声が聞えてきた。
 それから一の峠の頂上に達して、両人がそこで暫時休息した。そのとき心に思つたのは……実にこの小さな眼の見えるほど苦痛な、そして不幸なものはない。自分は眼が明いてゐるために、大蛇や狼を防がうとして、色々と心配をするが、盲目はなんとも思はず、平気で進んで行く。この小さな眼を開くことは要らぬことだ。世界のことは、眼を明けぬ方がよい。たとへ見えても見えぬふりする方が無難である……と覚ることを得た。
 すると盲目の使は、諄々と地の高天原における種々の様子を話してくれた。かつて自分の経つてきた幽界や、いまだ探険をせぬ神界の話もした。そこで、
『貴殿はどうしてこんなに詳しいことが解るか』
とたづねた。
『あなたをお迎へに来て、お目にかかつた時、あなたから光が現はれて、今まで解らなかつたのが、幽界の方は何もかも明瞭になつて、非常に心が勇んできました』
と答へた。
 さうしてその使の言ふには、
『実は大神の命により、あなたを迎へに来たのであるが、地の高天原は今悪魔が、種々と邪魔をして黒雲に包まれてをるので、ひそかに隠れて来たやうな次第であります。そこで神様も単独では行かず、あなたに来てもらうて、地の高天原を明らかにすべく御用してもらはねばならぬ。あなたも洵に御苦労なことです』
といふ。自分はこの山の峠まで引つぱり出されて、かういふことを聞かされたのである。前回の探険に懲りてをるからと言つて、今さら女々しく引還すこともならず、行けば大変な艱難に会ふことは知れてゐるが、氏神や、神界の命令であるから、どこまでも奉ぜなければならぬと思ひ、勇気を鼓して地の高天原へゆくことにした。
 案の定、高天原の聖地に来てみると、自分の来ることを悪魔が先に知つて、非常に狼狽し、反抗運動の真最中であつた。丁度自分は、火の燃えてゐる中へ飛びこむ心地がした。

(大正一〇・一〇・一九 旧九・一九 広瀬義邦録)


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