出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語NM-1-51925/08入蒙記 心の奥王仁三郎参照文献検索
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第五章 心の奥

 日出雄は唐国別の談を聞いてしばらく俯いて考へ込んだ。日出雄の心天に忽ち大光明が輝いた。満州や蒙古に活動して居る馬賊といつても、決して一般人の考へて居るやうな兇悪乱暴の者ばかりでもあるまい。中古我国の元亀天正の頃の群雄が割拠して居たやうなもので、規律整然たるものであらう。決して人の財宝を掠奪したり、殺人強姦などを行ふものではあるまい。とに角徳を以て馴づけたなら、虎でも狼でも心の底より帰順するものだ。殊に蒙古の馬賊に至つては、弱者を助け狂暴なる者を誡め、社会の弱き人民を保護する任に当ると聞いて居る。政治の行届かない蒙古の広野では馬賊も一つの政治的機関だ。今日満州王をもつて自任して居る東三省の保安総司令である張作霖だつて、張宗昌だつて、その他の名ある督軍達は皆馬賊から出て居るのだ。これを考へても馬賊は決して日本の山賊や泥棒のやうなものではあるまい。一層のこと盧占魁と提携して蒙古に新彊に王国を建設し、日本魂の本領を世界に輝かすのも男子として面白い事業だ。しかし馬賊といつても種々の種類があつて、掠奪のみを以て事とする小トルの団体もある。善悪正邪の混淆して居る世の中だ、天下の大事と思へば小さいことに齷齪して居る訳には行かぬ。盧占魁の如き天下に驍名を馳せた馬賊の頭目は、決して人民を苦しめるやうなことはせないだらう。彼と宗教家とが提携したつて別に不都合はあるまい。大神業の御経綸に奉仕する一歩としては止むを得ない今日の場合だ。広大なる地域を有する蒙古に一大王国を建設すると云ふ計画は、事の成否は別として、日本男子としては実に壮快極まる試みだ、宗教家だと云つて神前に拍手し祝詞のみを上げて居るが芸でもあるまい。万有愛の主義から是非決行して見よう。心境を一変し、宗教的に世界の統一を図り地上に天国を建設する準備として先づ新王国を作り、東亜の聯盟を計るのが順序だらう。あゝ思へば実に壮快だ。腕が鳴り血が踊るやうだ。言語学の上から見ても、古事記の本文から見ても、蒙古は東亜の根元地であり、経綸地である。日本人は昔から、義勇の民が開国以来未だ一寸の地も外敵に侵されないと云つて自慢して居るものがあるが、しかし吾々の祖先は蒙古軍のために拭ふべからざる大国辱を受けて居るのだ。元寇の役はどうだつた。国内上下挙つて蒙古襲来の声に震駭し恐怖し、その度を失ひ、畏多くも亀山上皇は身を以て国難に当らむことを岩清水八幡に祈願し給ふた結果、全国の各大社には奇瑞続出して遂に伊勢の神風となり、蒙古は十万の軍を西海の浪に沈めた事は元明史略その他の史実にも明記され、生命を全ふして帰り得たるもの僅に三人といふことだ。しかしながら我国はこれをもつて日本男子の武勇を誇る事は出来まい。日本を守りたまふ神明の加護と畏多くも亀山上皇の宸襟を悩まされたその結果である。日本は神国、神の守りたまふ国で、決して外敵の窺ふことの出来ない磯輪垣の秀津間の国、細矛千足の国と誇つて居るが、今日の日本の現状は外敵に対しさう楽観して居られるだらうか、軍器の改良された今日では、少々の神風位で敵艦を覆すと云ふ事は到底不可能であらう。またそんな神頼みばかりやつて居て実行せないならば、到底国を保つ事は出来ないだらう。さて吾々の祖先が蒙古十万の大軍に脅かされた末代の大国辱を回復し、建国の精神と国威をどうしても一度中外に発揚して我歴史の汚点を拭はねばなるまい。宗教的、平和的に蒙古を統一し、東亜聯盟実現の基礎を立て見たいものだ。自分は今日黒雲のかかつた、世人から疑を受けて居る身の上である。この際グヅグヅせず思ひ切つて、驚天動地の大活動をやつて見たいものだ。盧占魁に会つたらば屹度自分の意志を受け入れるであらう。自分は今裁判の事件中だが弁護士の話によると、本問題は神霊問題だから二年や三年の中には到底解決がつくまいとのことだ。これの解決を待つて居ようものなら、我民族は日に月に窮地に陥るばかりだ。世界到る所排日問題は勃起し外交は殆ど孤立して居る。今の中に我同胞のために新植民地でも造つておかねば我同胞は遂に亡ぶより外はない。しかしながら大本信徒にこんな事を云はふものならそれこそ大騒動だ。しかし面白い、ひとつやつて見よう乗るか反るかぢや。元より身命を神に捧げた自分だと大覚悟を究めたのである。

 大本は野火の燃え立つ如くなり風吹く度に拡がりてゆく
 この度の深き経綸は惟神ただ一息の人心なし
 神の世の審判に今や逢坂の人は知らずに日を送りつつ
 いつまでも醜の曲神の荒びなば危ふからまし葦原の国
 世の中の移らふ状をながめては起つべき時の来るを悟る
 排他的既成宗教はあとにして開き行かなむ海の外まで
 吹かば吹け醜の木枯強くともわれには春の備へこそあれ
 白妙の衣の袖をしぼりつつ世を歎くかな隠れたる身も
 思ひきや御国のために尽す身をあしさまに云ふ醜のたぶれら
 身も魂も囚へられたる吾なれど心は広し天国の春
 機の緯織る身魂こそ苦しけれ一つ通せば一つ打たれつ
 神業をなすのが原の玉草は踏まれ蹂られながら花咲く
 天地の神に仕へて日の御子に赤き心を尽し奉らむ
 身はよしや虎伏す野辺に果つるとも御国のために命惜まず
 故郷にのこせし母を思ふ間もなくなく尽す神国のため
 月は今地平線下に潜みつつ世の黎明を待つぞ床しき
 惟神真の神の定めてし人の出でずば国は危ふし
 花見むと出でしにあらず野の桜吾衣手に香をな送りそ
 言霊の助け天照る日の本はすべての国を知らす神国
 天津日もただ一つなり地の上も一つの王で治まりて行く
 皆人の眠りにつける真夜中にさめよと来鳴く山郭公
 郭公声は御空に鳴きかれて月の影のみあとにふるへる
 国のため尽す谷間の真人を雲井に告げよ山郭公
 心のみ誠の道にかなふとも行ひせずば神は守らじ
 言挙げの条は数々ありながら暗夜をおしのわれぞ甲斐なき
 君のため御国のために真心を尽して後は津見に問はれぬ
 吾を知る人こそ数多ありぬれど我魂を知る人は世になし
 西東南も北も天地も担なうて立てる神の御柱
 世のために尽す心の数々を誰も白波の立ちさわぐなり
 現し世に生るも神の御心ぞまかるも神の恵とぞ知れ
 そよと吹く風にも声のあるものを神の御声の聞えざらめや
 夜な夜なに詣うでてあつき涙しぬ神座山の荒されし跡に
 わが涙こりては霖雨雪となり泉となりて御代を清めむ
 神の御名を世界に広く現はして永久に生きなむ律に死すとも
 古のエスキリストも甞めまじきその苦しみを吾に見る哉
 足乳根の老います母を偲びつつ出で行く吾は涙こぼるる
 濡衣のひる由もなき悲しさに霧島山の火こそ恋しき
 月一つ御空にふるひ地に一人友なくふるふ吾ぞわびしき
 退きも進みもならぬ今の世は神のみ独り力なりけり

(大正一四・八・一五 加藤明子筆録)



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