出口王仁三郎 文献検索

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物語38-5-211922/10舎身活躍丑 凄い権幕王仁三郎参照文献検索
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第二一章 凄い権幕〔一〇五八〕

 明治卅七年になつてから、日露戦争が勃発したので、ソロソロ四方平蔵、中村竹蔵、村上房之助、木下慶太郎、田中善吉、本田作次郎、小島寅吉、安田荘次郎、四方与平、塩見じゆん、などの連中が俄に鼻息が荒くなり、六畳の離れに喜楽が閉ぢ込められ、隠れて古事記を調べたり、霊界の消息を書いてゐると、中村竹蔵が二三人の役員と共に大手をふつてやつて来た。そして喜楽に向ひ、
中村『会長サンどうです、大望が始まつたぢやありませぬか、早く改心をなさらぬと、今年中に世界は丸潰れになりますぞ、露国から始まりてもう一戦があるとお筆先に出て居りますだないか、ヘンこれでも筆先がちがひますかな、霊学三分筆先七分にせいと、お筆先に出て居るのに、一寸も筆先をおよみにならぬから、露国から戦が始つても何も分りますまいがな、この先はどうなるといふ事を御存じですか、早く教祖さまにお詫をなされ』
と威丈高になつて、説諭するやうな気分で喋り立た。丁度宣戦の詔勅が下つた三日目である。そこで喜楽は自分の随筆と題した一冊の書物を出して、中村に示し、
喜楽『そんな事はとうから分つてゐるのだ、これを見てくれ、明治卅五年の一月にチヤンと明治卅七年の二月から日露戦争が起るといふ事が自分の筆でかいてある』
とそこを広げてつき出して見せると、中村は妙な顔をして、
中村『そんな角文字をまぜて、外国身魂で何程書いても、そんな事はここでは通用しませぬ、何にも知らぬ学のない神力ばかりの教祖のお筆先が尊いのです』
と木で鼻をこすつたやうに、冷笑的に云ふ。そこで喜楽は、
喜楽『お前は明治卅三年にも今年に日露戦争が起るといひ、三十四年にも三十五年にも毎年、今年は日露戦争が起る、立替が始まる、目も鼻もあかぬ事が出来るというて居つたぢやないか、そんな予言でもしまひには当るもんだ』
といふと中村は威丈高になり、
中村『私は自分が言ふたのではない、勿体なくも艮大金神変性男子出口の神さまのお筆先に……今年は立替が始まる、露国との戦ひがある……と現はれて居るので、さういふたのです、つまり会長サンは教祖ハンのおつしやつた事や神さまの御言をこなすのですか、あなたの御改心が遅れたために御仕組がおくれたのでございますぞ。会長サンが明治卅三年に改心が出来て居つたら、神さまは三十三年に立替をなさるなり、三十四年に改心が出来て居つたら、ヤツパリ三十四年に立替を遊ばす御仕組にチヤンと三千年前から決まつて居ります、自分の改心がおくれて神さまに御迷惑をかけ、御仕組を延ばして、世界の人民を苦しめておきながら、神さまがウソを言ふたよにおつしやるのですか、そんな事をおつしやると、綾部には居つて貰へませぬ、何というても露国と日本との戦争が始まつたのですから、きつと日本は九分九りんまで、サア叶はぬといふ所まで行ますぞ、そうなつた所で綾部の大本から艮金神変性男子の身魂が大出口の神と現れて、艮めをさして三千世界をうでくり返し、天下太平に世を治めて、後は五六七の世松の世と遊ばすのですから、早く改心をして貰はぬと、お仕組の邪魔になりますぞや、三千世界の立替立直しの御用の邪魔を致した者は、万劫末代書きのこして、見せしめに致してその身魂を根の国底の国へおとすぞよ………と神さまがお筆先にお示しになつて居りますぞや、会長サンの改心が一日遅れたら世界の人民が一日余計苦しむといふ、あんたの身魂は極悪の身魂の因縁性来だから、何事も改心が一等ぞやとお筆に出て居ますぞえ』
と脱線だらけの事を云ひ並べて攻め立てる。会長は可笑しさをこらへて、
喜楽『自分が一日早く改心したために三千世界の人間が一日早く助かるといふよな、善にもせよ悪にもせよ、そんな人物なら結構だが、自分等一人がどうなつた所で、世界に対して何の関係があるものか、余り訳の分らぬ事を云ふもんぢやない、そんな事を云ふから、綾部の大本は、気違の巣窟だとか、迷信家の寄合だとか、世界から悪罵されて、はねのけ者にされるのだ、チツとは考へて貰はぬと困るぢやないか』
と言へば中村は口をとがらし、
中村『おだまりなされ海潮サン何程うまく化けても駄目です。世間から悪くいはれるのがそれほど気にかかりますかな、何と気の小さい先生ですな、それだから変性女子は反対役だと神さまがおつしやるのだ、世界中皆曇つて昼中に提灯を持つて歩かなならぬ暗がりの世の中になつてゐるのぢやから、世界の人民にほめられるよな教がそれが誠ですかい、トコトン悪くいはれてトコトンよくなる仕組ですよ、余りあんたは角文字や外国の教にこるから、サツパリ霊がねぢけてしまうて、お筆先が分らぬのだ。チツとお筆先を聞きなされ』
と呶鳴りつけながら、恭しく三宝にのせて来た七八冊の筆先をよみ始め出した。
 喜楽は頭が痛くなつて来て、気分が悪くて仕方がない。そこで、
喜楽『その筆先なら何べんも聞いて居るから、聞かして貰はいでもよい、何もかも知つてゐる』
というや否や、
中村『コラツ小松林、お筆先が苦しいか、サアこれからお筆先攻にして退かしてやろ、サア早く小松林、このお筆先を聞いて、トツトと会長サンの肉体を立去れ、そしてその後へ変性女子の身魂坤の金神さまがお鎮まり遊ばすのだ、会長サンの肉体は、貴様のよな四足の這入る肉体だないぞ、コラ退かぬか』
と呶鳴りつける。村上や四方平蔵が傍から、
村上『コラ小松林、何を愚図々々してゐるのだ、早く会長の肉体を飛出して、園部の内藤へしづまらぬか、悪の霊の年の明きだぞ』
と三方から攻めかける。四方平蔵は口を尖らして、
四方『コレ小松林サン、お前サンもよい加減に改心をなさつたらどうどすか、お前サンの改心が出来ぬために、教祖さまが有るに有られぬ苦労をなされてござるなり、役員信者が日々心配をいたし世界の人民が大変に苦しんで居るぢやないか、サア早く駿河の稲荷へ帰りなさい、ここは稲荷のよな下郎の寄る所ぢやございませぬぞや、水晶魂の誠生粋の身魂ばかり集まつて御用を致す竜門館の高天原でございますぞや』
 ウンウンと手を組で、三方から鎮魂をする、どうにもこうにも仕方がないので、会長は、
喜楽『そんなら仕方がないから、小松林は今日限り、いんでしまふ、そして坤の金神さまに跡へ這入つて貰うて御用をして貰ひませう』
といふと、竹蔵が、
中村『コレ平蔵サン、用心しなされや、また園部のよにだまされるかも知れませぬで。悪神といふ奴は何処までもしぶとい奴だから、ウツカリしとると馬鹿にしられますで。本当に小松林は改心しとるのだない、偉相に笑うて居るぢやありませぬか、コラ小松林、そんな甘い事吐して、会長の肉体を使はうと思つても、この中村が承知をせぬぞ、サア何ぞ証拠を出せ、いよいよ会長の肉体を離れたといふ事を明かに示して、教祖にお詫を致さぬと、どこまでも許さぬのだ。モウこうなつた以上は三日かかつても、十日かかつても、会長の肉体から放り出さなおかぬのだい』
と四股をふんで雄健びをする、千言万語を尽して諭せば諭すほど反対にとり、どうにも、かうにも始末がつかぬやうになつて来た。そこへ八木から福島久子がやつて来て、教祖さまに挨拶をし、終つて慌ただしく喜楽の前に来り、
久子『何とマア平蔵サン、お筆先は恐れ入つたものでございますな。とうとう露国と戦争が起つたぢやおへんか、まだ会長サンは御改心が出来ませぬのかい』
中村『コレはコレは福島ハンどすか、よう来て下さつた、神さまのお筆先は恐れ入つたもんどすな、こんな御大望が始つて居るのに、まだ小松林が頑張つて、会長サンの肉体を離れぬので、今皆の役員がよつて説諭をしとるのどすが、中々ど渋太うて聞いてくれませぬワ、どうぞあんたも一つ言うてきかして下さいな』
と福島の弁舌家に応援をさせようとかかつてゐる。またこんな口喧しい女にとつつかまつては大変だと思ひ、便所へ行くやうな顔して、ソツと裏口から飛出し、西町の大槻鹿造の宅へ一目散に逃て行つた。
 大槻鹿造とお米サンとの二人が喜楽の走つて行つたのを見て、
大槻『会長サン、また喧嘩が始まつたのかな』
と笑うてゐる。
喜楽『八木の福島が今やつて来よつたので、うるさいから逃げて来たのだ』
といふと大槻鹿造は、
大槻『アハヽヽまた例の小松林サンかな、まアここに久子が八木へ帰るまで、ゆつくり泊りなさい。新宮の婆アさまも婆アさまだ、立替だの立直しだのと、第一それが私は気に食はぬのだ、大槻鹿造は大江山の酒呑童子のみたまだなんて、婆アさまが吐かすので、何奴も此奴も人を鬼扱ひにしやがつて、むかつくのむかつかぬのつて、外の婆アぢやつたら、この鹿造も承知をせぬのだけれど、何と云うてもお米や伝吉の母親なりするもんだから、辛抱してゐるのだ、本当にトボケ人足ばかり集まつたもんぢや、それよりも牛肉でもここでたいて食ひなさい、何れ久子か平蔵か中村が捜しに来るに違ないから、牛肉の臭で往生さしてやるのも面白かろ』
と幸ひ牛肉屋を開業してゐるので、店から三百目ほど上等を持つて来て、裏の離れでグヅグヅと煮いて食ひ始めた。そこへ中村が、
中村『大槻サン、会長サンはもしやここへ見えては居りませぬかな』
と裏口の方から尋ねて居る。鹿造はチツと耳が遠いので、明瞬分らなんだが、お米サンが、
お米『中村ハンか、マア這入つて牛肉でも食ひなさい、今会長に牛肉をすすめて食はしてる処ぢや、樫の実団子を食つたり、芋の葉のお粥を食つとるより、余程気がきいてるで、ここは大江山の酒呑童子と蛇との因縁の身魂の夫婦の所へ鬼三郎ハンが来て居るのだから、みたま相応で牛肉を食て居るのだから、お前もチと鬼の仲間入したらどうぢや』
と揶揄うてゐる。中村は鼻をつまみながら、顔しかめて這入つて来て、
中村『御免なはれ、大槻サン、あんたは教祖ハンの御総領娘を女房に持つたり、結構な御子を貰うて居りながら会長サンにそんな事を勧めて済みますか、四ツ足を食はしたり、余りぢやおへんか』
と不足らしく呶鳴つてゐる。鹿造は笑ひながら、
大槻『今の世の中は一日でも甘い物喰て、好きな事をするのが賢いのぢや、お前もチと改心して牛肉でも食て、元気をつけ、古物商でもやつて金儲けをし、立派な着物を着て甘いものでも食つたらどうだ、何程善ぢや善ぢやというてお前等一人位がしやちんなつても、誰も相手にする者がないぞ、会長サンは流石はよう分つとるワ、この時節に四足の肉が食へぬの何のと、そんな馬鹿な事をいふ奴がどこにあるものか、余程よい阿呆だなア』
とからかひ半分に呶鳴つてゐる。お米サンはまたお米サンで、
お米『コレ中村ハン、お前は播磨屋の竹ハンというて、随分博奕もうち、女も拵へ、肉もドツサリ食た男ぢやが、さう俄に神さまにならうと思うたて、到底成れはせぬぞえ、あんな新宮の気違婆アさまにトボけて居らずに、チト明日から牛肉でもかついで、そこら売りに往つたらどうだい、誰か売りにやらさうと思うてる処ぢやが、五円がとこ売つて来ると一円位儲かるから、そしたらどうだな』
と厭がるのを知りつつ態とにからかうてゐる。中村は蒼白な顔になり、
中村『ともかく会長サンを返して下され、大本の御用をなさる因縁の身魂だから、こんな所へ来て貰ふと、だんだんに身魂が曇つて仕方がないと教祖さまがおつしやりました、サア会長サン早う去にませう』
と引張らうとする。会長は、
喜楽『コレ中村はん、最前から牛肉を三百目かけて貰うて一人で食つてしまうた、これは小松林が食たのだから、これから坤の金神さまに三百目ほどお供へしてから帰ぬから、教祖ハンや、お久ハンや、平蔵サンによろしうというといてくれ』
とワザとに劫腹が立つので、からかうてみると中村は躍気となり、
中村『どうも身魂の因縁といふものは仕方のないもんぢやな、悪の霊の所へはヤツパリ悪がよりたがると見えます』
といふのを聞咎めて、鹿造は、
大槻『コレ中村、おれを鬼とは何だ、貴様に三文も損をかけた事もなし、貴様等に悪といはれる筋があるか』
といふより早く、二つ三つポカポカと拳骨をくれた。中村は、
中村『ナアに大和魂の生粋の、おれは身魂だから、酒呑童子の霊位に恐れるものか』
と言ひながらスタスタと新宮さして帰つてしまつた。さうかうして居る所へ、園部の浅井みのといふ支部長がやつて来て、それから此処にグヅグヅして居つてはまたうるさいといふので、お米サンに何事も頼んでおき、日の暮頃から、園部へ行つて隠れて布教することになつた。

(大正一一・一〇・一八 旧八・二八 松村真澄録)



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