出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語38-1-71922/10舎身活躍丑 火事蚊王仁三郎参照文献検索
キーワード: 神懸と神憑
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第七章 火事蚊〔一〇四四〕

 人盛なれば天に勝ち、天定まつて人を制すとかや、喜楽は一身一家を抛つて、審神者の奉仕に全力を尽すと雖も、何を云つても廿余名の、元より常識の欠けた人物の修行者が発動したこととて、どうにもかうにも鎮定の方法がつかない。正邪理非の分別もなく、金光教会の旧信者ばかりで、迷信と盲信との凝結であるから、到底審神者の云ふ事は聞入れないのである。また神懸といふ者は妙なもので、金光教の信者が修行すれば金光教の神が憑つて来る。どれもこれも皆金神と称へる。天理教の信者が修行すれば、十柱の神の名を名告つて現はれる。妙霊教会の信者が修行すれば、また妙霊教会の奉斎神の名を名告つて現はれて来る。その外宗旨々々で奉斎主神の神や仏の名を名告つて、いろいろの霊が現はれ来るものである。上谷の修行場では金光教の信者ばかりであつたから、牛人の金神だとか、巽の金神、天地の金神、土戸の金神、射析の金神などと、何れも金神の名を名告るのであつた。また竜宮の乙姫だとか、その他の竜神の名を以て現はれる副守護神も沢山なものであつた。
 今日の大本へ修行に来る人間は、大部分中等や高等の教育を受けた人が多いから、この時のやうな余り脱線的低級な霊は憑つて来ない。が大本の最初、即ち明治卅二年頃の神懸といつたら、実に乱雑極まつたもので、丸で癲狂院そのままの状態であつた。その上邪神の奸計で、審神者たる者は屡危険の地位に陥る事があつて、到底筆や口で尽せるやうな事ではなかつた。幽界の事情を少しも知らない人々がこの物語を読んでも、到底信じられないやうな事ばかりであるが、それでも事実は事実として現はして置かねば、今後の斯道研究者の参考にならぬから、有りしままを包まず隠さず、何人にも遠慮会釈なく、口述する事にしました。
 頃は明治卅二年、秋色漸く濃やかな時、金明会の広間では、例の福島、村上、四方春三、塩見、黒田を先頭に、日夜間断なき邪神界の襲来で、教祖のいろいろの御諭しも、喜楽の審神者も少しも聞き入れぬのみか、却て教祖や喜楽を忌避して、福島氏の如きは別派となり、広前の奥の間を占領し、四方、塩見、黒田三人の修行者と共に、奇妙な神懸を続行して居る。
『お父サン、久しぶりでお目にかかりました』
『ヤア吾子であつたか、会いたかつた……見たかつた……ヤア其方は吾妻か……』
『吾夫でござんすか、艮の金神さまが世にお落ち遊ばした時に、私も一所に落されて、親子兄弟がチリヂリバラバラ、時節参りて、艮の金神さまのおかげで、久し振りで夫婦親子兄弟の対面を許して貰ひました。あゝ有難い勿体ない、オーイオーイオーイアンアンアン』
と愁歎場を演出してゐる。余りの狂態に、平素から忍耐の強い教祖も、已むを得ず箒を以て、福島の神懸を掃出し、
教祖『お前は金光教を守護する霊であらう。この大本をかき紊すために、福島の肉体を借つて居る事は、初発からよう知つて居る。モウかうなつては許す事は出来ぬから、一時も早く退散せい』
と厳しく叱りつけられ、半分肉体の交つた神懸の福島は、大いに立腹し、
福島『この誠の艮の大金神さまのお憑り遊ばした福島寅之助を、よう見分けぬやうな教祖が何になる。勿体なくも艮の金神の生宮を、箒で掃出したぞよ。また上田も小松林のやうなガラクタ神が憑つてゐるから、この結構な大神をよう見分けぬとは困つたものであるぞよ。何のための審神者ぢや、分らぬといふてもほどがあるぞよ。サアサア皆の神懸共、これから丑の年に生れた寅之助の、艮大金神が神力が強いか、出口と上田の神力が強いか、白い黒いを分けて見せてやるぞよ。この方の御伴致して上谷へ来いよ。もし寅之助が負たら従うてやるが、この方が勝ちたら出口直も上田も、誠の艮の金神に従はして、家来に使うてやるぞよ。今日が天晴れ勝負の瀬戸際であるぞよ。皆の神懸よ、一時も早く上谷へ行けよ。出口と上田の改心が出来ぬから、今目をさまし改心のために、神が出口の家を灰にしてしまうぞよ。それから町中もその通りぢやぞよ。噫誠に気の毒なものぢやぞよ。人民が家一軒建てるのにも、中々並大抵の事ではないが、神も気の毒でたまらぬぞよ。これも出口直が我が強うて、上田の改心が出来ぬからぢやぞよ』
と四辺に響く大音声にて呶鳴り散らす。喜楽は何程福島に神懸の正邪を説明しても、聞かばこそ……、自分は誠の艮の金神ぢや、上田の審神者が何を知るものか……と、肩を怒らし、肘をはり、威丈高になつて、神懸や役員一統を引連れ、韋駄天走りに一里余りの道を、上谷の修行場さして行つてしまつた。
 出口教祖と喜楽と澄子の三人を広前に残して、役員も神懸も悉皆、福島にうつつた邪神の妄言を固く信じて、上谷へ行つてしまつた。喜楽は教祖の命によりて、二三時間ほど経つてから、中村竹蔵の妻の中村菊子とただ二人で、上谷の四方伊左衛門といふ人の家の修行場へ出張して見ると、役員も神懸も村の人達も、老若男女の分ちなく、悉皆福島について、高い不動山の上へ上つてしまひ、あとには黒田清子と野崎篤三郎とが修行場の留守をしてゐた。そして黒田には悪狐の霊が憑つて、喜楽の行つたのも知らずに、何事か一人でベラベラと喋り立てつつあつた。野崎はその傍に両手をついて、おとなしく高麗狗然として畏まつてゐた。喜楽の顔を見るなり、野崎は驚いて、黒田清子に耳打をすると、黒田は忽ちに仰向けになつて、
黒田『上田来たか、よく聞けよ。この方は勿体なくも素盞嗚尊であるぞよ。お前が改心出来ぬために、気の毒ながら綾部の金明会は灰にしてしまうぞよ。お前は何しに来たのぢや、一時も早う綾部へ帰つて、火事の消防にかからぬか。グヅグヅして居る時ではないぞよ、千騎一騎のこの場合でないか』
とベラベラと際限もなく喋り立てる。喜楽はいきなり、
喜楽『コラ野狐、何を吐すか。そんな事があつてたまらうか。コリヤ野狐、正体をあらはせ!』
と後から手を組んで『ウン』と霊をかけると、清子は忽ち四つ這になつて、
『コーンコン』
と鳴きながら、家の裏山へ一目散に駆け出した。野崎はビツクリして、後追つかけ、漸く三町ばかりの谷間で引捉へ連れて帰つて見ると、清子は正気になつたやうに見せて、
黒田『あゝ上田先生、誠にすまぬ事を致しました。モウこれからは、福島大先生の事は聞きませぬ。私は余り慢心をしてゐましたので、不動山の狐がついてゐました。あゝ恥かしい残念な』
と顔を袂で押しかくす。喜楽は、
喜楽『そんな事にたばかられるものか、詐りを云ふな、その場逃れの言ひ訳だ。審神者の眼で睨んだら間違ひはあるまい。四つ堂の古狐奴!』
とにらみつくれば、またもや、
『コンコン』
と鳴きながら、一目散に不動山を指して逃げて行く。しばらくすると、例の祐助爺イサンが、喜楽の前に走せ来り、
祐助『上田先生、あんたはまたしても神懸サンを叱りなさつたさうだ。今黒田サンに素盞嗚尊さまがおうつりになつて、山へ登つて来て大変に怒つてゐやはりますで。大広前が御神罰で焼けるのも、つまり先生の我が強いからでございます。爺イも一生懸命になつて、大難を小難にまつり代へて下さいと、お詫を致して、艮の金神さまや神懸さまに御願申して居りますのに、先生とした事が、お三体の大神さまのお懸り遊ばした結構な神懸サンを、野狐だなんておつしやるから、大神さまが以ての外の御立腹、どうしても今度は許しは致さぬとおつしやります。先生、爺イが一生の頼みでござりますから、黒田サンの神さまにお詫を、今直にして下さりませ。綾部の御広前や町中の大難になつてはたまりませぬから……』
とブルブル震ひながら、泣き声で拝んで居る。喜楽は、
喜楽『祐助サン、心配するな、決してそんな馬鹿な事があるものか。誠の神さまなら、そんな無茶な事はなさる筈がない。皆曲津神が出鱈目を言ふて居るのだ。万一綾部にそんな大変事があるものなら、自分が上谷へ来る筈がないぢやないか。ジツクリと物を考へて見よ』
と諭せば、爺イサンは少しは安心したと見え、始めて笑顔を見せた。喜楽は直に不動山へ登り、数多の神懸の狂態を演じて居るのを鎮定せむと、修行場を立出でた。爺イサン驚いて、喜楽の袖を控え、
祐助『先生、どうぞ山へ行くのはやめにして、これから直綾部へ帰つて下さい、案じられてなりませぬ。今先生が山へ登られたら、又々福島の神さまが、御立腹なさると大変でござります』
と無理に引止めようとする。喜楽は懇々と祐助をさとし、漸くの事で納得させ、中村菊子と同道にて、綾部へ立帰らしめ、喜楽はただ一人雑木茂る叢をかきわけて不動山に登り、松の木蔭に隠れて、神憑連中の様子を覗つてゐた。
 福島寅之助、四方平蔵、足立正信、その外一統の連中は、喜楽の間近に来てゐる事は夢にも知らず、一心不乱になつて、
『福島大先生さま、艮の大金神さま、一時も早く教祖さまの我が折れまして、上田が往生致しまして……綾部の戒めをお許し下さいませ、仮令私の命はなくなりましても、教祖さまが助かりなさりますように』
と一同が涙交りに頼んでゐる。四方春三の声で、
春三『皆の者よ、よく聞け。出口直は金光大神の反対役であるぞよ。上田のやうな悪い奴を引張り込んで、金光教会を潰したぞよ。あの御広間は元は金光の広間ぢやぞよ。それに出口と上田とがワヤに致したぞよ。誠の艮の金神が、今度は勘忍袋の緒が切れたから、上田の審神者を放り出さねば、何遍でも大広間は焼いてしまふぞよ。四方平蔵もまた同類ぢや、出口直と相談を致して、上田をかくれて迎へに行きよつたぞよ。出口と上田と平蔵と三人が心を合して、金光の広間をつぶしたぞよ。今度は改心して、上田を穴太へ追ひかへせばよし、何時までもそのままに致してをるやうな事なら、この神が許さぬぞよ』
などと、もと金光教の信者ばかりが集まつて、神憑の口で攻撃をやる。黒田きよ子がまた口を切つて、
黒田『足立正信どの、其方は何と心得て居るのぞえ。金光教会の取次ではないか、今まで出口の神の側に二三年もついて居りながら、上田のやうなガラクタ審神者に、広間を占領しられて、金光どのへ何と申訳致すのか。上田の行状を見たかい。彼奴は、毎日々々朝寝は致す、昼前に起て来て、手水もつかはぬ、猫より劣つた奴ぢやぞよ。寝所の中から首だけ出して飯を食つたり、茶を呑んだり、風呂へ這入つても顔一つ洗ふ事も知らず、あんな道楽な奴を、因縁の身魂ぢやから大切にしてやれ、と教祖が申すのは、チツと物が分らぬぞよ。教祖の目をさますのは、一番に上田を放り出すに限るぞよ。あとは金光教で足立正信殿が御用致せば立派に教が立つぞよ。あれあれ見やれよ、今綾部の金明会が焼けるぞよ。皆の者よ、あれを見やいのう』
と邪神が憑つて妄言を吐いてゐる。一同は目を遠く見はつて、綾部の方を覗く可笑しさ。折ふし綾部の上野に瓦屋があつて、窯に火を入れて居るのが、夕ぐれの暗を照して、チヨロチヨロと見え出した。さうすると、
黒田『サア大変ぢや大変ぢや、出口の神さまは誠に以てお気の毒ぢやぞよ。御心配をしてござるぞよ。今頃は上田の審神者が一生懸命になつて火傷をしながら火を消しにかかつて居るぞよ。大分にエライ火傷を致して居るから、今度こそは神罰で命を取られるぞよ。今出口の神が一生懸命に祈つてゐるぞよ、ぢやと申してこの火は中々消えは致さぬぞよ。綾部の大火事となるぞよ。神の申す事は一分一厘違は致さぬぞよ。これが違うたら神はこの世に居らぬぞよ。慢心は大怪我の元だぞよ。慢心致すと足許へ火がもえて来て……熱うなるまで気がつかぬぞよ。行けば行くほど茨むろ、行きも戻りもならぬよになるぞよ。それそれあの火を見やいのう』
と三人の神懸が口を切る。数多の村人も神憑も泣き声になり、
『福島大先生様、中村大先生様、四方大先生さま、足立大先生さま、どうぞお詫をして下さいませ』
と手を合して拝んでゐる。時正に一の暗み、瓦屋の火も見えなくなつた。
『火事にしては火が小さ過る。余り消えるのが早かつた。これは福島大先生さま、どういふ訳でございませうか……』
と尋ねて居るのは四方平蔵氏であつた。福島は横柄にかまへながら、
福島『ウン、神の御仕組で広前を一軒だけ犠牲に焼いたぞよ。皆の者よ綾部へ帰つて、出口の我を折らして、上田を放り出してしまへよ。その後へ誠生粋の艮の金神が、福島寅之助大明神と現はれて、三千世界の立替を致すから、天下太平に世が治まりて、大難を小難にまつり代へて許してやるぞよ。何程人民がエライと申しても神には勝てぬぞよ。疑を晴らせよ。誠の丑寅の金神の申す事は、毛筋の横巾ほども間違ひはないぞよ。改心致さぬと足許から鳥が立ちて、ビツクリ致して目まひがくるぞよ。改心するのは今ぢやぞよ』
と呶鳴り散らしてゐる。暗の帳はますます深く下りて来た。鼻をつままれても分らぬやうに暗い。提灯もなければ、上谷まで帰る事も出来ぬ真の暗になつた。村中の者が家を空にして、残らず此処へ登つてしまつて居つたが、山を下りるにも下りられず、途方に暮れて『惟神霊幸倍坐世』と合掌してゐる。其処へ暗がりの中から、喜楽の声として、
喜楽『汝等一統の者、余り慢心強き故に邪神にたぶらかされ、上田の審神者の言も用ひず、極力反対せし結果は、今汝等の云ふ如く、足許から鳥が立つても分るまい。喜楽は数時間以前から、この松の木蔭に休息して、汝等の暴言暴動を残らず目撃してゐた。汝等に憑つた邪神は、現在此処に居る喜楽を見とめる事も出来ない盲神だ。また綾部の広前は決して焼けてはゐないぞ。最前見えた火の光は、稍大にして火事の卵に似たれども、あれは火事ではない、上野の瓦屋が窯に火を入れたのだ。汝等は今此処で目を醒まし、悔ゐ改めねば、神罰忽ち下るであらう。現にこの山上にさまようて、帰路暗黒、一寸も進む能はざるは神の懲戒である。汝等一同の者、よく冷静に考へ見よ。万一広前が焼けるものと思へば、何故大神の御霊の鎮座ある、広前につめきつて保護せないのか。なぜ面白さうに火事見物をし、村中が弁当や茶などを携帯して、安閑と見下ろそうとしてゐるその有様は何の事か、これでも誠の神の行ひか、チツとは胸に手を当て考へてみよ』
と呶鳴りつけた。サアさうすると……上田は綾部に居ると固く信じてゐた一同の者は、藪から棒をつき出したやうに、喜楽が現はれたのと、その説諭に面食つて、泣く者、詫びる者、頼む者が出来て来た。暗き山路を下りつつ、躓き倒れてカスリ傷をするやら、茨に引つかかつて泣き叫ぶやら、ヤツとの事で不動山から、命カラガラ上谷の伊左衛門方の修行場へ帰つたのはその夜の十二時前であつた。
 何れの人を見ても、顔や手足に茨がきの負傷せぬ者は一人もなかつた。四方平蔵は、喜楽に手を引かれて下山したので、目の悪いにも拘はらず、かき傷一つして居なかつた。喜楽は一同の者が邪神の神告の全然虚言であつたので、各自に迷ふてゐた事を悟つたであらうと思ひ、急ぎ綾部へただ一人帰つて来た。そのあとで又々相変らず邪神の神憑を続行し、その結果一同鳩首会議を開き、その全権大使として足立氏と四方春三、中村竹蔵の三人が選まれた訳である。要するに甘く喜楽を追放するといふが大問題であつた。
 審神者の役といふものは仲々骨の折れるもので、正神界の神は大変に審神者を愛されるが、これに反して邪神界の神は恐れて非常に忌み嫌ひ、陰に陽に審神者を排斥するものである。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・一〇・一五 旧八・二五 松村真澄録)



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