出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語38-1-41922/10舎身活躍丑 誤親切王仁三郎参照文献検索
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第四章 誤親切〔一〇四一〕

 次郎松サンやお政後家サンに忠告の矢を射かけられ、しばらく閉口してゐたが……エヽこんな気のよわい事で、神界の御用が勤まるものか……と、忽ち勇猛心を発揮し、思ひ切つて、
喜楽『皆さまの上田家を思うて下さる御親切は私も骨身にこたへて有難うござります。しかしながら今私は神さまの御使となつて、お国のために尽さねばならぬ身の上でありますから、何と云つて意見をして下さつても、ここ十年ばかりは吾家へ帰つて来ることは出来ませぬ。また内へ金を送るといふやうなことは、到底私には出来ませぬ。それも私一人より上田家に子がないのならば、何とかしてでも内に居つて家のために働かねばなりますまいが、五人も弟妹のあることですから、家のことは私が居らなくても、どうなりと都合をつけて、神さまが守つて下さるでせうから……』
といふや否や、別家の次郎松サンは、忽ち目をむき口を尖らし、
次『ナニお前はそんなバカな事を言ふのだ。二言目には口癖のやうに、お道のためぢやの、お国のためぢやのと、小癪にさわることを云ふが、お国のために内を出るのなら、なぜにお上サンから日給を貰はぬのぢや。またお国のためになるやうな、ヘン、いふとすまぬが、エライ人間なら、仇恥しい乞食の真似をして親の家を飛出し、そこらあたりをウロウロと歩かいでもよいぢやないか。口に番所がないかと思うて、法螺を吹くにもほどがある。極道息子といふ者は、丁度三文の獅子舞のやうに口ばかり大きなもんだ。アハヽヽヽ』
とあくまで嘲笑する。そこで喜楽は、
喜『二人が何とおつしやつて下さつても、私は神さまのお道をすてるやうなことは到底出来ませぬ。真理のためには一歩もあとへは引きませぬ。凡て神さまのお道へ入ると、いろいろさまざまの妨害や圧迫が来るといふことは覚悟してゐますから、どうぞ十年がいかねば、せめて二三年の間暇を下さい。私は今綾部で幽斎の修行場を開いてるために、一日でも手ぬきが出来ませぬ。けれ共大切な祖母の病気と聞いて、帰らぬ訳には行かぬので、忙しい中を繰合せて帰つて来たのですから、どうぞそんなことを言はずに、今度は見のがして下さい。一時も早う綾部へ出て行かねばなりませぬから……』
とおとなしう頼んでみた。さうするとまた次郎松サンが妙な顔をして、蒼天を仰ぎ、鼻の先で『フフン』と笑ひながら、
次『何とマア甘いことをおつしやるワイ。かう申すと済みませぬが、お前等に修行をさして貰ふの、教へて貰ふのといふ者が、この広い世界にあるものか。遠い所のこつちやから分らぬと思うて、そんなウソツパチを垂れても、この黒い光る目でチヤンと睨んだら間違はないぞ。深極道めが、おのれの食ふだけなら猫でも犬でもするぢやないか。また犬や猫は飼うて貰うた家はよう覚えてゐる。お前は何ぢや、廿八年も飼うて貰うた大切な親の家を忘れてるぢやないか。畜生にも劣つた奴ぢや。よう考へて見い、とぼけ野郎奴。この穴太の在所には、戸数が百三十もあるが、皆先祖から仏法を信心して居るではないか。それにお前は悪魔に魅入れられて、たつた一人偉相に、神さまぢやの神道ぢやのと、何といふ不心得なことをさらすのだ。先祖さまに対して何と言訳をするのか。よう考へて見い。貴様がせうもないことをさらすものだから、村の交際もロクにして貰へぬやうになつたぢやないか。妙な神にトボけて、家の名まで悪うして、それで先祖さまに孝行と思ふか。それでもお国のためになるのか。勿体なくも花山天皇さまが御信心遊ばした、西国廿一番の札所、穴太寺の聖観世音菩薩の膝元に生れて、有難い結構な観音さまも拝まずに、流行神にトチ呆けてそれが何になる。お前が神を信心するので、村中からは上田の家をのけ者にして居ることを知らぬか。別家の私までが村で肩身が狭いぢやないか。チツとしつかりして目をさましたらどうだ。親の雪隠でクソをせぬやうな奴に碌な者があるか』
と旧思想をふりまはし、口角泡をとばしてきびしく責め立てる。また新別家のお政後家サンがいふには、
お政『コレ喜三ヤン、それだけ内に居るのがいやならば仕方がない。たつて綾部へ行くなとは言はぬから、お前は惣領で、この家を守らねばならぬ義務があるよつて、お米サンにお金を渡して行きなされ。なんぼ神さまの道で、金儲けにいて居るのぢやないと云うても、十円や二十円位は懐に持つておいでるだろ。それを悉皆渡して行きなさい。おばアサンも何時死なはるやら分らぬから、その時の用意もしておかねばならぬ』
と二人が右と左からつめかける。また母は母で、
母『頼むから、どうぞ内に居つておくれ。大勢の子にも代へられぬ兄のお前が、内に居らぬのは、何ともなしに心淋しい。去年神さまのことで家を出てからと云ふものは、毎日毎日お前のことが心配になつて、夜もロクに寝たこともない。知らぬとこへ行つて、いろいろと苦労や難儀をするよりも、一日でも親子が側に居つて、苦労をしておくれ。お前と一所に苦労をするなら、どんな辛いことがあつても辛いと思はぬから……』
と泣いて頼まれる。喜楽は進退谷まつて、どうともすることが出来なくなつた。別家の二人は頭から火のつくやうに喧しくいふ。ゴテゴテと病人の枕許で談判して居るのを、少し耳の遠い祖母に聞えたとみえて、少しく頭をあげて、
祖母『アヽ妾の病気も神仏のおかげで、八九分通り快うなりました。松サンやお政ハンや、お米のいふのも無理はないが内には弟の幸吉も居るなり、元吉も近い内にお雪と一所に手伝ひに来る筈であるから別に百姓に差支へもあるまい。喜三郎は一時も早う内を出て、綾部で神さまのために尽しておくれ。老人の差出口と、皆サンに怒られるか知らぬが今度だけは老人の頼みぢや、喜三郎のいふことを聞いてやつておくれ』
と雄々しくも云つてくれられた。老人の言葉には三人も反くことは出来ぬと、少し鉾先がにぶり出した。喜楽はその時にまるで百万の援軍が来たやうな気がして、思はず知らず、手を合はして祖母アさまを拝んだ。
 さうかうして居る所へ、弟の幸吉が田圃から鍬を肩にして帰つて来て三人の話を聞き、いろいろと喜楽のために弁護の労を取つてくれ、その夜は皆の人と袂を別つた。喜楽は真夜の十二時頃、幸吉と共に産土の小幡神社へ参詣し、
喜楽『どうぞこの度は無事に納まつて綾部へ帰れますやうに……』
と祈願をこらし、帰つて寝についた。
 翌朝になると、早々からまた株内の人々が出て来り、千言万語を費やして喜楽の綾部行を引止めようとする。彼これしてとうとう三日間穴太に引とめられてしまつたが、漸くにして、弟の幸吉を伴れて、一応綾部まで帰つて行くことになり、ホツと一息つくことが出来た。しかし次郎松サンやお政ハンや相談の上で、弟を伴れて行くことにしたのである。それは……喜楽がウソをついてをるのに相違ない、大方綾部の方で乞食でもして居るのだらう、去年着て出たなりの着物を着て帰つて来た以上は、仮令乞食をせず共、ヒドイ難儀をして居るのであらうから、お前は兄に従いて十分に査べて来い……と云ひふくめて同道させることになつたのである。幸吉も神さまのお道には元から熱心で、幽斎の修行までした位だから、喜び勇んで喜楽について来ることになつた。
 喜楽はヤツと安心して母に別れをつげ、急ぎ綾部へ帰らうとする折しも、例の次郎松サンがまたもややつて来て、
次『一寸喜三ヤンに尋ねたいことがあるから、しばらく待つておくれ。お前は神さまの道とかで、人の病気を治すとか、よう治さぬとか云ふことだが、現在親身のお祖母サンの病気はよう治さぬのかい、伺ひは出来ぬかい。お前のお自慢の天眼通がきくなら、凡そ何時頃に死なはると云ふこと位は分るだらう。葬式の用意もしておかんならぬし、もし神さまに頼んで治るものなら、今私の目の前で治して見せなさい。中々流行神サン位ではこんな大病は治るまい。治らな治らぬでよいから、せめて何時頃に命がなくなると云ふことを知らしてくれ。これ位なことが分らいで、人を助けるの、教へるの、お国のためだのと大法螺を吹いたとて、世間の人が承知いたさぬぞや。サアどうぢやどうぢや。見ん事返答が出来ますのかな』
と矢つぎ早にせめかけて来る。そこで喜楽はその場のがれの出放題に、
喜『お祖母サンの病気は三日先になつたら全快する。そして命は八十八まで大丈夫だ』
と云つてみた。これを聞いた次郎松サンは舌をニユーツと出し、大きな声でこけて笑ひ、
次『ヘー、お前サンの神さまは、何とマア、ドエライ御方ぢやな。こんな大病のしかも死病が三日のあとに治りますかい。そらチツと違ひませう。大方仏壇へでも位牌になつてお直りなさるのと、間違つてゐやしませぬかな。おまけに八十八まで命が大丈夫だと、フフーン丹波の筍医者が聞いて呆れますワイ』
と飽迄、俄に丁寧な言葉を使うて嘲り笑ふ。しかし不思議にも喜楽の言つた通り、三日の後に祖母は床払をすることになり、八十八歳まで生きて居られたのである。
 弟の幸吉が見るに見かねて、次郎松サンやお政後家サンに向ひ、
幸『ウチの兄イサンは神さまのお道に働かれる代りに、私が二人前働いて百姓を勉強しますから、兄いサンには内のことを心配かけぬやうにしたいものです』
と云ふや否や、次郎松サンは大きな目をむき、
次『コレ幸ヤン、何としたバカなことを言うのだ。お前までお紋狐につままれたのだなア。飯綱狐を沢山に懐に隠して居るから、グヅグヅしてると険呑だ』
と眉毛に唾をつける真似して、長い舌をニユーと出し、腮をクイクイと揺つて人を馬鹿にしてゐる。結局幸吉が二人前の仕事をするといふ条件付で、漸くその場をのがれ、綾部へ一時弟と共に同行することとなつた。

 這うて出てはねる蚯蚓や雲の峰

(大正一一・一〇・一四 旧八・二四 松村真澄録)



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