出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語37-2-121922/10舎身活躍子 邪神憑王仁三郎参照文献検索
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第一二章 邪神憑〔一〇二四〕

 喜楽は矢田の滝に修行に行つた序、朝早くから亀岡の伯母の内を一寸訪問してみた。伯母は大の稲荷信者であり、またその頃一寸天理教にもかぶれてゐた。喜楽が神懸りになつたといふことを聞いて、一度参つて見たく思ふてゐた際である。斎藤宇一を伴うて、その日伯母を訪ねて見ると、何時も『喜楽坊喜楽坊』と呼びずてにし、『お前はチンコだ、甲斐性なしだ。内の伜は体格も丈夫だし、余程賢い』などと、クソカスにこきおろすのが例であつた。それに今度は打つて変つて、門口へ這入るなり、伯母が飛んで来て、
伯母『モシモシ御台様、よう来て下さいました、どうぞ座敷へ御通り下さいまして、御ゆるりとなさいませ、何なつと御註文次第御馳走を拵へて上げます。お揚げがよろしいか、小豆飯をたきませうか、瓢箪さまの御台さまがござると甘鯛の一塩が好きだと云ふて、生なり食つて下さる、種油も食つて下さる、神さまによると、石油でも五合位おあがりになる、あなたは何がお好きでございますか、何なりと御註文なさりませ、神さまに気よう食て頂くほど気持のよいことはありませぬ』
とサツパリ稲荷下げに人をしてしまうてゐる。喜楽は首を左右に振り、
喜楽『伯母サン、私に神さまがうつつてもそんな卑しい物は御あがりにはなりませぬ、富士の山の天狗さまが憑つてござるのだから……』
伯母『天狗さまなら猶のこと、御あがりなさらんならん、いつも御台さまに鞍馬山の魔王さまがお憑りになり、何でもかんでも御あがりになり終ひにや瓢箪さままで御憑りになつて、よい声で歌ひ踊らはると、何とも云へぬ気持のよいものだ、さうすると、御前の神さまは死んだ神さまだな、物を食はぬから……』
 何時も狸寄せ、狐寄せをやつて居る伯母は、神懸りは何でもかんでも喰べるものと思ふて居るらしい。亀岡附近では何時も迷信家が寄つて、稲荷下げの御台さまを招いて来て寒施行といふことをする。その時御台になる女は神仏混淆の御経をとなへ、御幣を振つて……おれはどこの稲荷だ……とか、魔王だとか、五郎助だとか、太郎八だとか、狸までがやつて来て、一生懸命に一人の口へ入れてしまふ。小豆飯の三升位一遍にケロリと平げ、油揚の五十枚位苦もなく食つてしまひ生節の十本、蒲鉾の二十枚、種油一升、醤油五合御飯にお酒と殆ど想像もつかぬほど平げてしまひ、そしてよい声を出して、身軽に舞うたり踊つたりする。いよいよ神よせが済むと、元の肉体に返る。するとその稲荷下げは大抵女が多いが、
『あゝ大変腹がへりました。御膳をよばれませうか』
と自分から催促して、一人前以上を食つてしまふ。かういふ神憑りでないと亀岡地方では持てはやされぬのである。伯母はこの伝をいつも見て居るから、自分に懸る神さまは何も食はないと云つたら、
伯母『ソラお前の神経だ。ヤツパリ神さまぢやない』
などと云つて、また態度が一変し、
伯母『コレ喜三、よい加減に目をさまして、早う帰つて元の乳屋をしたり、百姓をしなさい。お前がさうヒヨロヒヨロしてるとお米がどんだけ心配するか知れぬ。私がこれから旅籠町の天理王さまへ連れて往つて御祈祷して貰つて上げよか』
と親切相に言うてくれる。宇一はポカンとして二人の問答を聞いてゐたが何と思つたか、黙つてポイと此家を出てしまつた。喜楽も宇一の出たのを幸ひ、伯母の内を甘く逃げ出し、穴太へ帰る途中、荒塚村の前で宇一に追ひつき、それからその足で寺村の重吉といふ稲荷下げの所へ調べがてら行くこととなつた。
 漸くにして寺村の小谷重吉の家に着いた。並河馬吉といふ男が世話係の元締をして居る。宇一は馬公と懇意の仲であつた。それは親類関係からである。馬吉は宇一の姿を見るなり、
馬吉『ヤア宇一サンか、よう来て下さつた。今穴太へ相談に行かうと思うて居つた所だ。昨夜から神憑りが烈しうて、どうにもかうにも仕様がない、穴太の先生にしづめて貰はうかと思つてゐた所だ。どうやろなア、来て下さるだらうか』
と尋ねて居る。宇一は、
宇一『この人が喜楽サンだ、頼んでみたがよからう』
馬吉『それは願うてもないこと、イヤ失礼しました。あなたが喜楽サンでございましたか、何分よろしう御願申します、サアどうぞ奥へ御通り下さい』
 瓦葺の田舎ではかなり大きな家であつた。馬吉の案内につれて二人は奥へ通ると、次の間に何とも知れぬ妙な唸り声が聞えてゐる。馬吉は一寸その声する方を指し、
馬吉『モシ喜楽の先生様、あの通り二三日前から唸り通しでございます。今迄二三十人病人を助けましたので、皆の者がエライ神さまだと云うて信心してゐましたが一寸調子に乗つたと見えて、逆上したのか、取止めのない訳の分らぬことを、あの通りベラベラ囀つて居ります。どうかして直す法はございますまいかな』
と心配らしく尋ねてゐる。喜楽は俯いて手をくみ思案にくれてゐる。
宇一『二三日前からうなり出したか、ソラ大方大天狗の口の切れかも知れんぞ、ズイ分俺ンとこで三週間修行した時にも、家がゴーゴー鳴る、ゆすれる、ソレはソレは大変なことがあつた。家の爺が怒つて、喜楽サンに修行場をどつかへ持つて行てくれと呶鳴つた位の大騒動だつた。その時は俺もズイ分肝を潰したが、モウ神憑りに経験がついたので、あの位の唸り声は何でもないワ。喜楽サンでなくても俺が一つ這入つてしづめて来てやらうか、ナア喜楽サン、どうせうかな』
喜楽『マアやつて見い、万一いけなかつたら、俺が出るとせう』
宇一『ヨシ来た、喜楽サン、ここに待つてゐてくれ……オイ馬サン、お前も一所に行てくれ、おれが一つ審神者をして天狗の口をきるか、もし悪神であつたら霊縛をかけてやらう』
と確信あるものの如く意気揚々として、一寸した廊下をわたり、二間建の離れ座敷の、唸り声のする方を指して進んで行く。
 しばらくすると大変な甲声の太いやつが聞えて来た……ハテな野天狗が現はれて口を切つてるのだなア……と思ひながら、自分で茶を汲み、二人の帰つて来るのを待つてゐたが、何時までたつても帰つて来ない。『ウンウン』と唸る声は段々と烈しくなる。この家の者はビツクリして、同じ村の親類へ皆逃げて行つて不在である。
 日の暮に間近く、座敷の隅はソロソロうす暗くなつて来た。細い廊下を渡つて声のする居間へ行つて見ると、二人共あべこべに霊縛にかかり、ふンのびてしまひ、その上に小谷重吉が神憑りになつたまま目を丸く光らせ、妙見サンが波切丸の宝剣を振り上げたやうな恰好で、力瘤だらけの腕を、赤裸になつて、頭上に片仮名のフの字型にし、左の手を握つて馬吉の頭をグイグイ押へつけながら、
重吉『コリヤ悪人共、改心致すかどうぢや、きさまは俺ン所の女房と何々して居るだらう。白状せい、コリヤ宇一、貴様も余り性がよくないぞ、鞍馬山の大僧正がその悪事をスツクリ調べ上げて制敗をしてやるのだ、サアどうぢや』
と云つては頭をコツンとなぐる。二人は強直状態となり、首ばかりふつて声をもよう出さず苦んでゐた。小谷重吉の神憑りは喜楽の姿を見るより、二人の上からツツと下りて叮嚀にキチンとすわり、
重吉『これはこれは大先生さま、よう来て下さいました。私は一体神憑りですやろか、但は気が違うて居るのですやろか、自分がてに合点が行きませぬ。どうぞ一つ査べて下さいな、オホヽヽヽ』
と厭らしう笑ふ。どうしても普通とは見えぬ。そこで『ウーム!』と一つ鎮魂をやつて見ると、重吉は何の感応もなく依然として坐つて居る。霊が二人にかかつたと見え、俄に二人は強直状態から免がれ、ムクムクと立上がり、重吉の左右に責寄つて、宇一は左の手を、馬吉は右の手をグツと後へまはし、手早く手拭で括らうとする。
喜楽『オイそんな乱暴なことしちやいかぬ、待て待て、コリヤ神憑だから、本人が悪いのぢやない、そして俺がここへ来た以上は、キツとあばれささぬから、その手を放してやれ』
馬吉『今日までこんな事はなかつたのです、ただ大きい声で怖い面して呶なる一方でしたが、今の先から様子がガラツと変り、私がこの男の女房を何々したとか云つて、覚えもないことをぬかし頭をコツきよるのです。こんな神憑があつてたまるものか、常平常から此奴ア悋気深い奴だから、私が此処へ遊びに来るのを、何か妙な目的があつて来て居るのだと思うて居つたに違ひない。それが一つになつて気が狂ひ、情ないことをぬかすのだらうから、一つ頭から血を出し、水でもかけてやらねば直りますまいで、なア宇一君、お前どう思ふか』
宇一『俺は全くの気違とはよう思はぬワ、ドエライ野天狗が憑きやがつて重吉の肉体の精神とゴツチヤ交ぜになつて、こんな事を吐すのだと思ふ。一つ喜楽サンに鎮魂して貰うたら分るだらう、俺もこんな審神者をしたことは今日が始めてだ、こんな奴に相手になつて居らうものならそれこそ命がけだ、最前も俺の喉笛に喰ひつかうとしたので、横面をはり倒してやつたら、俄に口を切り出しあんな事吐すんだよ』
 重吉はまたもや立ち上り、両腕をプリンプリン振りながら、
重吉『この方は鞍馬山の魔王大僧正だ、これから鞍馬山へ天の雲へ乗つて、行つて来る、その方はそれまでここに待つて居れ、今度おれが帰つたら、大変な神力を受けて帰り、どいつも此奴もゴテゴテ吐かす奴を片つ端からふン伸ばし、股から引さき戒めてやるほどに、ウツフーン』
と云ひながら、ドシンドシンと一足々々足に力を入れ外へ出ようとする。喜楽は両手を組んで、『ウーン』と一声霊を送つた。重吉はその場に大の字になつて倒れてしまうた。
馬吉『コレ喜楽サン、そんな無茶なことしてどうなりますか、手も足も冷たうなつたぢやありませぬか、もし後へ戻らぬやうなことがあつたら吾々は大変ですがな、どうして下さる』
と気色をかへて、鼻息をはずませ、腕をニユツとつき出して迫つて来る。
喜楽『ナアニ心配いりませぬよ。今戻してやりますよ』
と言ひながら、二拍手して天の数歌を二回まで唱へ上げた。重吉は、
『アハヽヽヽ』
と笑ひながら、身体元の如く軟くなつて起あがり、
重吉『アー喜楽サン、ホンに偉い御神力ぢや、モウこれならお前さまも大丈夫だ、サア法貴谷へ修行に行きませう、喜楽サン従いて来て下さい、お前さまに真言秘密の法を教へて上げるから、この魔王大僧正が直接に、神変不可思議の魔術を授けますぞや。アーン』
喜楽『おかげで私はいろいろの神術を高熊山で教はりましたから、モウ結構でございます、どうぞ結構な法があるのならば、馬サンや、宇一サンに授けて上げて下さい』
とからかひ気分に云ふ。重吉は肩を怒らしながら、言も芝居口調になつて、
重吉『コレなる両人は、生れつきの精神が悪いによつて、神が見せしめのため、ふン伸ばしてやつたのだ。かやうな者に魔訶不思議の法を授けやうものなら、どんなことを致すか分りませぬワイ、ウツフヽヽヽ』
と立ちはだかつて、得意面をさらしてゐる。半分は肉体、半分は野天狗の神憑といふ状態であつた。馬吉は握拳をかためて重吉の横面をピシヤピシヤとなぐりつけ、
馬吉『コリヤ小谷重吉、きさまは偽気違の偽神がかりだ、常平常から俺を誤解してゐやがるからそんな事をぬかしやがるんだ。俺は貴様の云ふやうな悪人ぢやないぞ、どうぢや貴様が去年、○○の嬶を○○した時に、泣いて俺に仲裁を頼みに来よつたぢやないか、その御恩を忘れたのか馬鹿野郎奴!』
と面ふくらして真向になつて怒つてゐる。
宇一『オイ馬公、こんな半気違をつかまへて怒つたつて仕方がないぢやないか』
馬吉『おれも親類なり、友達だと思うて、家内でさへもよう居らぬ重公の世話をしてやつて居るのに、喜楽サンの前で、有りもせぬことを吐しやがると、業腹がにえてたまらぬのだ』
 重公はその間に尻をまくり、
重吉『コラ馬公、けつでもくらへ!』
と云ひながら、真黒けの尻を出し、二つ三つ叩いて裏口から、どこともなし飛出してしまうた。日はズツポリとくれて、何処へ行つたか、チツとも見分けがつかなくなつてしまうた。後にて聞けば法貴谷の石凝とか云ふ天狗が住んでゐる岩山へ逃げ込んでゐることが四五日してから分つたのである。
 喜楽はただ一人穴太の自宅に帰り、日夜の参詣者に対して鎮魂を施し神占を取次いでゐた。

(大正一一・一〇・九 旧八・一九 松村真澄録)



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