出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語37-2-111922/10舎身活躍子 松の嵐王仁三郎参照文献検索
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第一一章 松の嵐〔一〇二三〕

 一週間の矢田の滝の行を終つてから、宮垣内の自宅において、喜楽は愈々神業に奉仕する事となつた。盲目や聾唖、リウマチ、その他いろいろの病人がやつて来て鎮魂を頼む、神占を乞ふ、何れも御神徳が弥顕だと云ふ評判が忽ち遠近に轟いて、穴太の天狗さまとか金神さま、稲荷さまなどといつて、朝から晩まで参詣人の山を築き、食事する間もない位、多忙を極めて居た。
 例の次郎松サンがやつて来て、祭壇の前に尻を捲つてドツカと坐り、大勢の参拝者の中をも顧みず、真赤な顔して喜楽を睨みつけ、
次郎松『コリヤ極道息子、貴様はまたしても山子商売をやる積りだな。ヨシ、今に化けの皮をヒン剥いて、大勢の前で赤恥かかして見せてやらう。それが貴様の将来のためにもなり、上田家のためにもなるのだ。株内や近所へよいほど心配をかけさらせやがつて、その上まだ狐使ひの真似をするとは何の事だ。何故折角ここまで築きあげた、見込のある牧畜や乳屋を勉強せぬか。神さまだの、占だの、訳の分らぬ出鱈目を吐しやがつて、世間の人を誤魔かし、甘い事を仕様たつて駄目だぞ、尾の無いド狐とは貴様の事だ。貴様が本当に神様に面会が出来、また神様の教が伺へるのなら、今俺が一つ検査をしてやらう。万が一にも当つたが最後、俺の財産四百円の地価を残らず貴様にやる』
と口汚く罵りながら、湯呑みの中へ何か小さい物を入れて、その口を厚紙で貼り糊をコテコテとつけ、音をせぬやうに懐から出して前にソツと置き、
次郎松『サア先生、イヤ極道息子、指一本でも触る事はならぬ。このままこの湯呑みの中に、どんな物がどれだけ這入つてをるかと云ふ事を、貂眼通とか鼬通とか云ふ先生、見事あてて見よ。これが当つたら、それこそ天が地になり地が天になる。お月さまに向つて放す弓の矢は中つても、こればつかりは滅多にあたる気遣ひはない。どうですな、先生!』
と軽侮の念を飽迄顔面に現し、喜楽の顔を頤をしやくつて睨めつける。
喜楽『俺は神様の誠の教を伝へたり、人の悩みを助けたりするのが役だ。手品師のやうに、そんな物をあてると云ふやうな事は御免蒙りたい。神さまに教へて貰ふた事はないから知りませぬ』
 次郎松はシタリ顔で、一寸舌を出し頤を二つ三つしやくつて、
次郎松『態ア見やがれド狸奴、到頭赤い尻尾を出しやがつた。エー、おけおけ、この時節にそんな馬鹿の真似さらすと、この松サンがフンのばしてしまふぞ。オイ狸先生、腹が立つのか、何だ、そのむつかしい顔は……残念なか、口惜しいか、早く改心せい、ド狸野郎奴』
と益々傍若無人の悪言暴語を連発する。喜楽はあまり次郎松の言葉が煩さくなつて来たので、一層の事、彼の疑心を晴らしてやらうと思ひ、
喜楽『松サン、あんまりお前が疑ふから、今日一遍だけ云ふてやるが……一銭銅貨を十五枚入れてあるだらう』
 側に聞いて居つた数多の参詣者は、各自にこの実地を見て感嘆して居る。次郎松は妙な顔しながら、御叮嚀に喜楽の顔をまたもや覗き込み、自分の右の手で自分の膝頭を二つ三つ叩き、首を一寸傾けて、
次郎松『ハア……案の定、狐使ひだ。やつぱり箱根山の道了権現のつかはしの飯綱をつかつてるのだな。一体そんな管狐を何処で買つて来たのだ。何匹ほど居るのか。そんなものでも一匹が一円もとるか、一寸俺にも見せてくれ、ホンの一寸でよい、大切なお前の商売道具を長う見せてくれとは云はぬ』
と訳の分らぬ質問を連発する。迷信家ほど困つたものはない。
喜楽『神懸りの霊術によつて、透視作用が利くのだ』
と少しばかり霊魂学の説明を簡単に述べたてて見た。されど元来の無学者だけに、何をいつても馬耳東風、耳に入りさうな事はない。またもや次郎松は口を尖らして、
次郎松『透視だか水篩だか、そんな事ア知らぬが、そこらに小さい管狐を放り出さぬやうにしてくれよ。ヒヨツと取り憑かれでもしたら大変だ。皆さま用心しなさい。此奴ア飯綱使ひだから、うつかりしてると憑けられますよ。病人が来ると、管狐を一寸除かして、病気を癒し、またしばらくすると管狐をつけて病人にして、何度も礼をとると云ふ虫の良い商売を始めかけよつたのだ。何しろ近寄らぬが何よりだ。別に穴太の村に喜楽が居つて神を祀らうが祀らうまいが、矢張お日さまは東から出てござる。暗がりになるためしもなし、喜楽が神さまを始めてから、お日さまが、光りが強くなつた訳ぢやなし、お月さまが毎晩出る訳でもないし、こんな者に騙されるより早う皆さまお帰りなさい。こんな奴に眉毛をよまれ尻毛をぬかれて堪りますか。俺はきつてもきれぬ親類だから、第一上田家のため、またこの極道のため、お前サン達のため気をつける』
と口を極めて反対の気焔をあげる。しかし参詣者は一人も消えぬ。依然として鎮魂を乞ひ、伺ひを願つて喜んで帰つて行く。次郎松サンは翌日の朝早くから穴太の村中一軒も残らず、
次郎松『家の本家の喜楽と云ふ奴は、この頃飯綱を買うて来て妙な事をして居よるから、相手になつてくれるな』
と賃金不要の広告屋を勤めて居る。次郎松は神の教を忌み嫌ふ悪魔の霊に憑依されて知らず識らずに邪神の走狗となつてしまつたのである。
 その翌日大勢の参拝者を相手に、鎮魂をしたり神話を始めて居ると、侠客俣野の乾児と自称する背の低い牛公がやつて来た。足に繃帯をして居る。
牛公『オイ、喜楽サン、随分お前の商売もよう繁昌するね。俺は夜前一寸足に怪我をしたのだ。どうぞお前の鎮魂とかで足の痛みを止めて貰ひたいものだ』
と横柄に手を拱き、座敷の真中にドスンと坐つて揶揄ひ始めた。元より怪我などはして居ないのだ。みな嘘の皮、万々一喜楽が、
『さうか、それは気の毒だ』
と云つて直に祈願でもしやうものなら、
『天眼通の先生がこれが分らぬか、怪我も何もして居ない、嘘だぞ』
と云つて大勢の中で笑つたり、ねだつたり、困らしたりしようとの悪い企みで来て居るのである。もし喜楽が、
『お前は疵も何もして居ない。そんな事をして俺をためしに来て居るのだ』
と云へば、自分の指の下に隠した小刀で繃帯を解きながら一寸足を切つて血を出し、
『これや、これだけ血が出て居るのに怪我して居ないとは何の事だ。ド山子奴!』
と呶鳴り立てあやまらして、酒銭の一円も取つてやらうとの算段をして居るのだと見てとつた喜楽は、牛公の言葉を耳にもかけず放擲つて、素知らぬ顔で数多の参詣者に鎮魂を施して居た。
 牛公は喜楽の態度が余程癪に触つたと見え、狂ひ獅子のやうに暴れ出した。忽ち先祖代々から家の宝としてる、虫喰だらけの真黒気の障子の桁を滅茶苦茶に叩き破る、戸を蹴破る、火鉢を蹴り倒すと云ふ大乱暴をなしながら、再び座敷の真中にドスンと胡坐をかき、
牛公『こりや安閑坊の喜楽! これでも罰をようあてぬか、腰抜け神の鼻垂れ神ぢやな。そんなやくざ神を祀つてる貴様は、日本一の馬鹿野郎だ。今この牛さまが神床に小便をしてやるから、神力あり正念がある神なら、立所に罰をあてるだらう。そんな事してよう罰をあてんやうな腰抜神なら、神でも何でもない、溝狸位なものだ。蚯蚓に小便かけてさへ○○が腫れるぞ、此奴ア狸だから正念があるなら、俺の○○を腫らして見い!』
と云ひながら犬のやうに片足をピンと上げて、無作法にもジヨウジヨウとやりかけた。数多の参詣者は吃驚して、残らず外に逃げ出してしまつた。喜楽は神界修業の時から、三五教の無抵抗主義を聞いて居たから、素知らぬ顔して彼がなすまま放任して居た。牛公は益々図にのつて、終ひには黒い尻をひきまくり、喜楽の鼻の前でプンと一発嗅し『アハヽヽヽ』と笑ひながらサツサと帰つて行つた。
 それと擦れ違ひに、弟が野良から鍬を担げて慌だしく馳来り、牛公の乱暴した事を聞き口惜がり、地団太を踏みながら、
由松『エーツ、この神さまは力の無い神だ。毎日々々物を供へてやるのに何の罰でもようあてぬのか。ウーンとフンのばしてしまへばよいのに、そうすれや牛公だつて、次郎松だつてよう侮らぬのだが、此処に祀つてあるは気の利かぬ寝呆け神だから、あんな奴に馬鹿にしられるのだ』
と歯をかみしめて吃りながら怒つて居る。喜楽は静に弟に向つて、
喜楽『オイ、由松、そんな分らぬ事を云ふな。よう考へて見い、彼奴ア畜生だ。名からして牛ぢやないか。猫や鼠は尊い御神前の中でも、糞や小便を平気で垂れて居る、烏や雀は神様の棟へ上つて糞小便を垂れかける、それでもチツとも神罰があたらぬのぢやないか。元来畜生だから、神様のおとがめがないのだ。人間も人間の資格を失ふたら畜生同様だ。畜生に神罰があたるものかい』
と云はせも果てず由松は、
由松『ナニ、馬鹿たれるか』
と云ふより早く、祭壇の下へ頭をつつ込みそのまま直立した。祭壇も神具もお供物一式ガタガタと転落し、御神酒からお供水、洗米、その他いろいろの供物が座敷一杯になつてしまつた。神様の御みとまで畳の上にひつくり返つて居る。由松は拾うては戸外へ投げつける、参詣者はビツクリして顔色を変へチリチリバラバラに逃げ出す。由松は猶も猛り狂ひ、
由松『オイ哥兄、こんなやくざ神を祭つて拝んでも屁の役にもたたぬぢやないか、もう今日限りこんなつまらぬ事はやめてくれ。こんな餓鬼を祀つただけに家内中が心配したり、村中に笑はれたり、戸障子を破られたり、この神は上田家の敵だ。敵を祀ると云ふ事が何処にあるものか』
と分らぬ事を愚痴つて怒つて居る。
 喜楽は由松の放かしたおみとを拾ひ塩で清め、再び祀り直し神様にお詫をして、漸くその日は暮れてしまつた。
 その日の夜中頃、由松の枕許に男女五柱の神様が現はれ玉ふて、頻りに由松に御立腹遊ばしたやうなお顔が歴々と見え、恐ろしくて一目もよう寝ず、夢中になつて寝たままあやまつて居る。せまい家の事とて横に聞いて居る喜楽の可笑しさ。由松もこれで少しは気がつくだらうと思つて居ると、翌朝早くから御神前をお掃除したり、お供物をしたり、祝詞を奏げるやら、しばらくの間は打つて変はつて敬神の行為を励んで居た。しかし十日ほどすると、またもや神様の悪口を次郎松と一所になつて始めかけた。

(大正一一・一〇・九 旧八・一九 北村隆光録)



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