出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語31-1-31922/08海洋万里午 救世神王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ヒルの都
あらすじ
 ヒルの都の楓別命の妹紅井姫は、付き人を伴って日暮シ河で鵜飼をして、鮮魚を生け捕ったが、その帰途に大地震に遭遇して、市内の家屋の下敷きになってしまった。そこに来合わせた国依別は楓別命の妹紅井姫とは知らずに助け、楓別命の館に運んだ。その後、国依別は球の玉の神力と、生言霊の威力で地震を鎮めた。
 紅井姫の報告で楓別命は国依別に礼を言う。国依別は「非常時の為に蓄えておいた五穀の倉を開いて人々を助ける」ことを提案する。それに同意して、館では炊き出しも行った。館の一同は市内を回りそれを触れ回った。三五教一同は負傷者を鎮魂で癒したり、あまたの人に仁志を施す。
 この度の天変地異で三五教に救われた国内の人々はこぞって三五教の誠の信徒となった。
名称
秋山別 アリー 楓別命 国依別 紅井姫 サール 科山別 モリス
国魂 国治立命 豊国姫命
天津祝詞 天の数歌 生言霊 鵜飼 ウラル教 妖邪の空気 球の玉 高砂洲 鎮魂 バラモン教 日暮シ河 ヒルの都
 
本文    文字数=11027

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第三章 救世神〔八六九〕

 天気晴朗にして  蒼空一点の雲翳もなく
 士農工商は各その業を楽み  常世の春を祝ひつつ
 或は娶り或は舞ひ歌ひ  山河は清くさやけく
 樹木は天然の舞踏をなし  渓流は自然の音楽を奏し
 鳥は梢に唄ひ蝶は野に舞ひ  花に戯れ、嬉々として遊べる
 平安無事の天地の現象  さながら神代の如くなり
 瞬く間に一天俄に掻き曇り  満天墨を流せし如く
 洋々として紺碧の  空を翔る諸鳥は
 忽ち地上に向つて  矢を射る如く落ち来り
 大地忽ち震動し  天国浄土は忽ちに
 地獄餓鬼道畜生道  修羅の巷と一変し
 時々刻々に大地の震動  猛烈を加へ来る而已
 山岳は崩れ、原野は裂け  民家は倒れ橋梁忽ち墜落し
 彼方此方に炎々と  天をこがして燃えあがる
 空前絶後の大火災  身の毛もよだつ凄じさ
 神の恵の天国も  天の下なる神人が
 佞け曲れる魂や  醜の言霊重なりて
 妖邪の空気鬱積し  天地主宰の大神の
 大御心を曇らせて  忽ち起る天変地妖
 慎むべきは世の人の  耳に鼻、口、村肝の
 心の持様一つなり  あゝ惟神々々
 これの惨状見るにつけ  高砂島の国人は
 神の尊き御心を  完美に委曲に体得し
 いよいよ茲に天地の  神の権威に畏服して
 心を直し行ひを  改め神に仕へたる
 尊き昔の物語  神のまにまに述べ立つる
 あゝ惟神々々  神の御霊の幸はひて
 遠き神代に住まひたる  高砂島の人々は
 云ふも更なり天の下  四方の御国に大空の
 きらめく星の数の如  生れ会ひたる人々は
 昔の事と思ふまじ  心を清め身を清め
 転迷開悟の栞にと  心に刻みて惟神
 神の御子と生れたる  我天職を尽せかし。
 そもそも神は万物に  普遍し玉ふ神霊ぞ
 人は天地の御水火より  生れ出でたる神の御子
 尊き神の肉の宮  皇大神の神力を
 発揮し玉ひて天地を  開かせ給ふ司宰者と
 生れ来りし人の身の  その天職を自覚して
 誠の神に服せよや  旭は照る共曇る共
 月は盈つ共虧くる共  仮令大地は震ふ共
 山裂け海は涸く共  この世を造り玉ひたる
 神の御前に真心を  尽しまつりて人たるの
 努めを尽せ惟神  神は汝と共にあり
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 汚れ果てたる人の身も  罪を見直し聞直し
 宣り直します天津神  国津神等八百万
 国魂神を始めとし  吾等を親しく守ります
 産土神を敬ひて  この美はしき天地に
 暴風洪水大火なく  饑饉戦争病気なく
 四海同胞の御神慮を  朝な夕なに省みて
 神のよさしの天職に  尽させ玉へと祈れかし
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ。

 ヒルの都の楓別命の妹に紅井姫と云ふ容色並びなき、今年十九の春を迎へた美人ありけり。日暮シ河の水は大に減少し、数多の溌溂たる鮮魚は何れも下流のヒルの都附近に、大部分集まり来り、鵜飼の遊びは昼夜の区別なく、盛に行はれける。紅井姫の侍女として仕へまつれる、アリー、サールの二女は館の内事を司るモリスと共に、一度この鵜飼の遊びを試みたく希望しゐたりしが、何と云つても勤めの身の上、自由にならぬ悲しさに、折りあるごとに紅井姫の前に出で、日暮シ河の鵜飼の最も壮快なる事を話し居たりける。紅井姫は侍女の面白さうな話に稍心を傾け、自ら兄の楓別命に向つて一日の清遊を許されむ事を請ひければ、楓別命は何時も深窓にのみ在りて、外出せざる紅井姫のたまたまの希望なれば、否むに由なく、快くこれを許し、内事の司モリスを始め、アリー、サールの侍女を従へ、その他四五の従者と共に、城外を流るる日暮シ河に鵜飼の遊びを許したりける。
 茲に紅井姫は天にも昇る心地して、モリス以下を従へ、鵜飼の遊びを終り、数多の鮮魚を生捕り、勝誇つたる面色にて城下に帰り来る折しもあれや、俄に天地震動し、大地は上下左右に動揺し始め、家屋はベタベタと将棋倒しになり、紅井姫の一行もまた市内の家屋に圧せられ、煙に包まれ見へずなりける。
 火災は各所に起り、忽ちヒルの都は阿鼻叫喚の巷と化しぬ。かかる所へ宣伝歌を歌ひながら悠々として進み来る一人の宣伝使は、国依別の宣伝使なりける。
 両側の家屋は街路に無惨にも滅茶々々に倒れ、火は追々に前後左右より燃え来るその物凄さ。忽ち煙に包まれて、咫尺も弁ぜざるに至れり。間近の足許に聞ゆる女の悲鳴、国依別の宣伝使は、その声を目当てに探り寄り、押へられたる柱を剛力に任せて取り除き、何人かは知らね共、矢庭に背に負ひ、
『天津神、国津神、国魂の神、産土の神、一時も早くこの惨状を助け玉へ……』
と祈りつつ宣伝歌をうたひ、煙の中をかきわけて、ヒルの都の中央に下津岩根の岩石の布き並べたる自然の要害地、楓別命の神館に思はず知らず走せ着きぬ。
 国依別はヤツと胸を撫で卸し、女を背よりその場におろし、ホツト息をつぎにける。女は細き声にて、
『何処の方かは存じませぬが、危き所を御助け下さいまして、有難うございます。全くあなた様は妾の命をお助け下さいました誠の生神様でございませう』
と感謝の涙を絞り、手を合せ伏し拝む。国依別は言葉静かに、
『私は三五教の宣伝使でございます。これの神館にまします楓別命様に一度お目にかかりたく、遥々尋ねて参る途中において、今の大震害、思はずあなたを御助けしたのも、全く神様の御引合せでございませう。御礼をいはれては却て迷惑に存じます』
『妾は楓別命の妹紅井姫と申す者、日暮シ河の鵜飼遊びの帰るさ、思ひもかけぬ大地震の厄に遭ひ、命危き所、あなたに助けられた者でございます。サアサア早く御通り下さいませ。兄もさぞ喜ぶ事でございませう』
『あゝ左様でございましたか。不思議な御縁でございますなア。しかしながら……アレ御覧なさいませ。四方の山々は盛に噴火を始め、黒雲天を封じ、地は裂け、各所より濁水を吐き出し、早くも低地は大洪水となり、人々の泣き叫ぶ声は、刻々に高まりて参りました。私はこれより球の玉の神力を以て、この天変地妖を鎮め、万民を助けねばなりませぬ。貴女はどうか早くお館へ御這入り下さいませ。後程参りますから……』
『左様ならばお先へ失礼致します。キツと御待ち申して居りますから、必ずお這入り下さいませや』
と云ひすてて、館の内へ慌だしく駆入りにける。国依別は一心に、
『国の大御祖国治立命、豊国姫命、国魂の神、一時も早くこの地異天変を鎮め、青人草は申すも更なり、一切の生物を御救ひ下さりませ……』
と念じ、全身の霊力を籠め、天の数歌を声高々と宣りあげ、『ウーウー』とウの言霊を発射すれば、不思議や大地の震動忽ち休止し、諸山の噴火は従つて止り、噴出する洪水はピタリと止まつて、見る見る内に減水し始めたり。言霊の伊吹の力著しく、満天を包みし黒雲は拭ふが如く晴れ渡り、歓喜の太陽は煌々として中天に輝き、下界の惨状を憐れげに照し玉うた。
 楓別命は高殿に上り、この惨状を救はむと、一心不乱に紅井姫の身の上の事などは、スツカリ念頭より忘却して、只々天下万民のために祈願をこらしつつありき。
 かかる所へ国依別の宣伝使現はれ来りて、天津祝詞や生言霊を円満清朗に宣り上げければ、一切の地異天変は言霊の神力によりて、再び安静に帰し、天日の光りを仰ぐに至り、万民歓喜の声、天地に充ち渡りける。アヽ惟神、惟神、生言霊の神力、実に尊さの限りと云ふべし。
 紅井姫の報告により、楓別命は驚喜しながら、慌だしく国依別が立てる前に来りて、その神力を感賞し、かつ、
『紅井姫の命まで救ひ玉ひし事の有難さよ、御礼は言辞に尽し難し……』
と感涙に咽びながら、国依別を伴ひて、奥殿指して進み行く。
 先づ第一に国依別の言葉を容れ、非常時のためとて、蓄へおきたる五穀の倉を開き、楓別命、国依別、紅井姫を始めとし、秋山別、科山別は駿馬に跨り、城下を隈なく駆け巡り、大音声にて、
『市中の人々よ、一刻も早くヒルの城の神館に集り来れ。汝等一同を助け遣はさむ!』
と市中隈なく、泥濘の道を駆け巡りけるにぞ、柱に圧せられて半死半生となりし者、水に溺れて、早くも死亡せし者、火に焼かれたる者など、その惨状目も当られぬばかりなりけり。
 楓別命は秋山別、科山別に命じ、俄に館内の男女をして炊き出しをなさしめ、日夜救済に努め、負傷者は鎮魂を以てこれを治しやり、普く数多の人々に仁恵を施し、国依別の神力と楓別命の仁愛の真心は洽く国内に喧伝さるるに至れり。これより国依別は楓別命の勧むるままに、しばらく神館に足を止め、数多の国人に神教を新に伝へけるが、今迄ウラル教やバラモン教を信じ居たる人々も、この度の地異天変によつて、三五教に救はれたるを心の底より打喜び、国内挙つて三五の誠の信徒となりにける。

(大正一一・八・一八 旧六・二六 松村真澄録)
(昭和九・一二・一六 王仁校正)



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