出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語31-1-21922/08海洋万里午 大地震王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
アラシカ山 エス宅
あらすじ
 国依別が去った後、エリナはニ心で神を信仰するのはやめて、常世神王に主一無適の信仰を捧げることを決意した。そうすると母親の病気は快方に向う。母親は「夫がウラル教の宣伝使であるのに、三五教の宣伝使を家に入れているので、常世神王に申し訳なく、その気持ちが原因で病んでいたが、国依別が出て行ったので気分が良くなった」と言う。エリナも「これからは迷わない」と約束する。
 そこへ、アナンが捕手としてやって来て、「エリナは三五教のマチとキジを日暮シ山に差し向けた張本人である」と言い、エリナを捕らえようとする。母親はそれを聞き、またもや人事不省となってしまう。エリナは「母親が病気なので、自分が捕われると看病するものがいないので猶予してくれ」と頼むが、アナンは承知しない。そこで、ついにエリナは居直って、「自分は三五教の宣伝使だ」と啖呵を切る。それを聞いた母親は事切れてしまう。
 アナンがエリナの首に縄をかけようとしたとき大地震が起こる。エリナの家も焼け、母親の死骸は惟神的に火葬になった。そこで、エリナは思わず国治立大神に祈念をこらす。そうすると、やっと地震は治まる。エリナは国依別命が恋しくなり、ヒルの都を目指して一目散に駆け出す。
 ヒルの都も、大地震のために火災が起こり、火は天に届くようで、空の雲まで真赤に染まっている。
名称
アナン エリナ テール ユーズ
キジ 国治立大神 国依別 常世神王 ブール マチ
ウラル教 大地震 日暮シ河 日暮シ山 ヒルの都
 
本文    文字数=9604

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第二章 大地震〔八六八〕

 国依別の立去つた後のエリナは、掌中の玉を何者にか奪はれたるが如き心地しながら、門に立出でて、宣伝使の姿の広き原野に見えなくなるまで打見まもり、
『アヽ御親切な御方であつたナ。どうぞモウしばらく居て下さればよかつたのに……俄に御機嫌を損ねたと見えて、とうとう帰つてしまはれた。最早この上は三五の神様に見放されたに違ない。ヤツパリ昔から信仰して来た常世神王様を、一心不乱に信仰致しませう。お父さまが日暮シ山の牢獄に囚はれて、あるにあられぬ責苦に会ひ、お苦しみ遊ばすのも、その元を尋ぬれば、ウラル教の神司でありながら、ブールの教主様が常に異端とし、外道としてお嫌ひ遊ばす三五教の宣伝使を吾家に泊めたり、またウラル教の信者に対し、異端外道の教を御勧め遊ばした天罰が酬うたのであらう。何程誠の教でも、常世神王様に仕へて居る以上は、二心を出して他の神様を信仰すれば、神罰が当るのは当然だ。アヽこれから心を改めて、常世神王様に対し、心の底よりお詫びを致し、主一無適の信仰を捧げませう。……あゝ常世神王様、吾々教子の重々の罪、何卒御赦し下さいませ』
と言ひながら、家に入り、母親の枕許に進み寄り見れば、母親は少しく頭を擡げ、ニコニコと笑ひ初めた。
『アヽお母アさま! 大変に御気分がよささうにございますなア。こんな嬉しい事はございませぬ』
『お前は余り両親を大切に思ふ真心より、遂にウラル教の有難い事を忘れまたお父さまのやうに三五教の宣伝使を吾家に連れ帰り、外道の神様を信仰なさるものだから、私もまたもやブールの大将に睨まれ、お前と私とが、再びお父うさまのやうに、水牢の責苦に会はねばならぬかと、それが心配になつて、病気はだんだん重るばかり、心の中で……常世神王様、どうぞ一時も早く宣伝使が帰つてくれますやう……と、祈願をこらして居りました。おかげによつて外道の宣伝使、吾家を立出で、姿を見せなくなつたので、ヤツと安心し、俄に気分も良くなつて来たのよ。モウこれからどんな事があつても、外道の宣伝使を吾家へ連れて帰ることはなりませぬぞや。お前は親を助けようと思うて焦り、却て、外道に迷ひ、親を苦しめるやうな事になるから、どうしてもこうしても常世神王様の教を疎外し、外道に迷はぬやうに心得て下されや。おかげは忽ちこの通りだから、神様が種々として、吾々親子の信仰の厚薄を御試し遊ばすのだから、チツとも油断はなりませぬぞえ』
『ハイ、現当利益と言ひ、お母アさまのお言葉といひ、只今限りスツパリと心を改め、決して外の道へは迷ひませぬから、御安心下さいませ』
『あゝそれを聞いて母も安心しました。サア早く常世神王様に御礼を申上げておくれ!』
『ハイ、只今直に感謝の詞を捧げませう』
と直ちに、庭先を流るる細谷川に身を清め、衣類を着替へ、恭しく感謝祈願の祝詞を奏上し居る。
 かかる所へ日暮シ山のブールの使として、アナンは四五人の部下を引つれ、この家に荒々しく入来り、いとも声高にエリナに向ひ、
『オイ、エリナとやら、貴様はまたしても、三五教の神司を吾家に引入れ、朝夕……親の病気を直さうとか、父の危難を遁れさせ玉へとか云つて、祈らして居つたではないか? 近所の者の注進によつて、何もかもスツカリと教主の耳に這入つてゐるぞ! それにも拘はらず、三五教の乱暴者キジ、マチの両人を差向け、聖場を蹂躙せむと致した図太き代物……サア教主の命令だ、尋常に手を廻せ。日暮シ山の館に連れ帰り、その方もエスのやうに水牢に投込み、戒めてやらねばならぬ』
と鼻息荒く呶鳴りつける。母親はアナンの声を聞いてまたもや心を痛め、猛烈なる癪気を起し、その場に『ウン』と倒れて人事不詳の体なり。エリナは身も世もあられぬ心地しながら、こわごわ手を仕へ、
『これはこれはアナンの大将様、よくこそ御入来下さいました。御存じの通り、父は館に囚はれ、跡に残つた一人の母はこの通りの大病、今私が引つ立てられて参りますれば、あとに誰が母の世話を致す者がございませう。是非行かねばならぬ者なれば潔く参りますが、どうぞこの母の病気が直りますまで、御猶予を願ひます』
 アナンは烈しく首を左右に振り、
『あゝイヤイヤ、その事ばかりは罷り成らぬ。一時も早く汝を召捕来れよとの厳命、到底吾々の独断にてその方に猶予を与へる事は出来ない。何と云つても引捉へて帰らねば、この方の役目が済まぬ。そうして三五教の宣伝使は何時此処を立つたか?』
『只今御立ちになりました』
『さうだらう。最前歌を歌つて行きよつたのが、神力無双の国依別だらう。彼奴が居やがると、チツと此方も都合が好くないのだ。二三日前から、この家を遠巻きに巻いてゐたのだ。サアもうかうなる上は、泣いても悔むでもおつつかぬ。キリキリと手をまはさぬか』
 エリナは自棄気味になり、容を改め、悪胴を据ゑ、
『コレ、アナンさま! お前さまも余程良い腰抜だなア。日暮シ河では脆くも一人の宣伝使に追ひまくられ、またたつた一人の国依別が恐ろしうて、二晩も三晩も、この暑い、蚊の喰うのに、頼みもせぬ私の家の夜警をして下され、渋茶の一杯も進ぜるのが道かは知りませぬが、餓鬼にやる茶があつても、お前さま等に呑ます茶はありませぬワ。そこに谷川の水が流れてゐるから、それなつと呑むで、モウ一きり御講演を願ひます。ラツパ節でも法螺貝節でも構ひませぬワ。お母アさまの冥途の土産に、一つ力一杯吹き立て下さい』
 アナンはクワツと怒り、巨眼を見開き、
『コリヤ女! 譬へがたなき汝の雑言無礼、最早聞捨はならぬぞ』
『お父うさまはお前達悪人のために囚へられ、お母アさまはこの通りの重病、たつた今の先、余程快方にお向ひ遊ばし、ヤツと安心する間もなく、お前がここへふみ込んで大声を出し、お母アさまを最早取返しのならぬやうな重態におとしてしまひよつた以上は、お母アさまの御寿命も今日一日が保ちかねる。さうならばこのエリナは最早自棄くそだ。たかが男の五匹や十匹、何が恐ろしい……国依別の宣伝使より神変不思議の神力を授かり、最早立派な三五教の女宣伝使だ。指一本でも触へるなら、見事触へて見よ』
と呶鳴り立て、睨み付けたる。その権幕に流石剛情我慢のアナンも辟易し、エリナの顔を見つめて稍不安の念に沈みゐる。母親は『キヤツ』と一声悲鳴をあげたまま、縡切れにける。エリナは驚いて、
『お母アさま!モ一度物を言うて下さいませ……エリナでございます』
と死骸に取付き、あたり構はず泣き叫ぶ。アナンは今こそと、手早く捕縄を取出し、エリナの首にひつかけようとする一刹那、俄に轟々ガタガタと凄じき物音聞え来たりければ、アナンを始め一同は驚き戸外に駆出す刹那強烈なる大地震起り、アナンを始め一同は生命カラガラ、転けつまろびつ、常世神王の祠の前を指して、四這となり逃げて行く。
 地震は益々烈しさの度を加へ来たる。エリナは母親の死体を抱へて外へ飛出さうとする途端、家はメキメキメキと音を立て、バサリと打ち倒れける。エリナは止むを得ず、身を以て逃れたるが、忽ち火を失ひ、エリナの家は火煙濛々として立上り、母親の死体は惟神的に火葬に附せられ了りぬ。上下動の激震は刻々に烈しく、エリナは松の木の株にシカと抱付き、目を塞ぎ、地震の歇むのを待ちながら、一心不乱に『国治立大神守り玉へ幸はひ玉へ……』と祈念をこらしける。……漸くにして地震は止まり、エリナはホツと一息しながら、ここに居つてはまた何時捕手の襲ひ来るやも計られずと、俄に国依別の宣伝使が恋しくなり、ヒルの都を指して一目散に走り行く。
 ヒルの都を遠く見下ろせば、大激震のため火災起り、火は天に冲し、空の雲まで真赤に染まり、所謂雲焼志居たりける。

(大正一一・八・一八 旧六・二六 松村真澄録)



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