出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
出口王仁三郎全集 第7巻 全8巻(復刻)1999.02彼の面出口王仁三郎参照文献検索
キーワード: 和歌実作
 
本文    文字数=3080

とある日の憂欝な彼の面ざしが、訳もなく自分の心をゑぐるのだ
間伐の杉丸太が皮をはがれて白じろ光つてゐる、四月
温泉宿の女中の赤い頬べたに自分の若い日が思ひ出される
スバルが大空を行く、あとからオリオン星座が鋤のやうに曳かれて行く
煙の行方を見て楽しむ癖が自分をして煙草を静かに楽しましめる
感傷的な彼女の眼に歓びと淋しさを感じてゐる、夜!
しとりしとり季節はづれの雨がこぼれる、真冬の夜の独り居!
高い煉瓦壁をみつめながら未決にをつた昔の日を思ひ出してゐる
なれなれしく膝にのぼつてくる仔猫にもひそかな愛を感じてゐる
バットの箱のやうな冬晴の空、大日蓮峯はプラチナのやうに光つてゐる
久しぶりに友と語らふ冬の日の陽あしが迯げるやうに山に沈む
蜂の巣をつついたやうな満洲の騒ぎをぢつと見てゐる自分は心が苛立つ
夕陽は山に入る待ちくたぶれた自分の心が尖る
雲の幕の破れ目から宝石のやうな星が覗いて暖かい冬の宵
内閣の更迭で田舎まで役人の首が飛ぶ物騒な冬だ
たつた五分間の遅刻に社長の眼が異様に光る
自分等を人間と思つてゐるのだらうか、あの冷たい社長の眼に
毀されたお宮の趾に建つた神声碑に教祖の姿が目に躍る
天地の歓喜に浸りながら今日も彼と歌をかいてゐる
公衆の前に琴を弾ずる耻かしさうな彼女の姿が自分の心をチヤームする
議曾解散になつた一月の空に不安な顔が並ぶ役所の事務室
北国の旅から帰つた朝の神苑に霜ばしらがたつてゐる
久しぶりに故郷へ帰つた寂しい日だ、小学校の新しい棟のみが光つてゐる
冬枯の萩の林を伐りとつた夕、明るい朗かな神苑だ
何といふこの静けさだらう、竹やぶの竹の梢は微動だもしない
何程おさへられても頭をあげねばおかぬ筍のやうな俺だ
半円タクにさへ乗り手のない不景気の町だ、寒雨が降つてゐる
霜の夜に響く拍子木の音がかちりかちりと自分の胸にぶつつかる
疑ひ深い税関の眼に無雑作に封をきられた満洲帰りの土産の煙草だ
義歯の腮の下を潜つた鰡の子だ、番茶をくくんでゆすり落してゐる
マツチ箱のやうな郊外電車が走つてゐる、人の頭が二つ三つ見えて
神経のにぶい自分は牢獄の中も苦痛を感じない幸をもつてゐる
わからない奴に弁解する必要はないのだ、只俺は微笑で済しておいた
涙よわい女の顔に何時もたましひをひきつけられてゐる
暖かい冬晴の縁の障子に羽のよわい蝿が毬をつく真昼
バラスの一つ一つに月が宿つてゐる、雨はれの夕べの神苑だ