出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
東北日記 全8巻1928.08~1929.02虫の声月の家参照文献検索
キーワード: 自然
備考: 全集(5) P.433 虫の声 「蝉の雄は一体何の目的を以て喧しく鳴くかといふに
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本文    文字数=2379

 蝉の雄はいつたいなんの目的をもつて喧ましく鳴くかというに、それほ雌を呼ぶためである。ある学者は、蝉は耳無しの顰だといつている。しかしその雌を捕えてみると、雄の発音器のある個所に、鼓膜からなる耳らしいものが明らかに存在している。
 体のある部分と部分とをすり合わして、音をだす虫に、カミキリムシ、蟻、メンガタスズメ、シモアリスズメなどという蟻の類やタイコウチという水虫の類がある。かれらは敵の攻撃をうけると、いずれも胸と胸の節、あるいは腹の節と節をすり合わしてキーキー、あるいはシュツシュツというような音をたてる。キーキーの方はわれわれが聞くと、哀れみを乞うかのようにとれるが、真の意義は、シュツシュツという音とともにやはり敵をおどすにあるらしい。また蟻では仲間の通信に用いている。体の一部をすり合わせて音をだす虫で、いちばん有名なのは秋に鳴く虫である。人々は、かれらは口で鳴くと思つているかもしれぬが、じつは翅と翅とをすり合わせて、あの美音をだすのである。今その発音器を調べてみると、二枚の翅のなかで、下になる方の翅の付け根に近い表面の端に、脈が膨らみ、やや隆まつた個所がある。また上になる翅の裏面の中央より少し元に近く翅を横切つて、太い脈がある。この脈の下面には細かい刻み目がついていて、ちようど鑢の表面のようになつている。秋に鳴く虫じゃ、この下翅の脈の太まりと上翅の脈の鑢とをすり合わせて、あの妙なる音を文字どおり奏でだすのである。その目的は雄が雌を招くにあると解釈されているが、ひいては生物中最高の官能を持つた人類の聴感を刺戟して、その美音に陶酔させるほどの威力をさえもつている。
 虫の発する音、いな奏でる兼の音は、無知の人には神秘の妖音ともきこえて不思議がられるが、詩情を持つた人が聴けば、それは自然の示す立派な芸術である。
(無題『東北日記』 四の巻 昭和3年9月9日)