出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
東京日日新聞 昭和10年12月9日【附録】p2(1) 参照文献検索
キーワード: 二次事件
 
本文    文字数=9726

”弾圧の嵐”をゆく
天恩郷車窓に教主、万感の涙!
十五年ぶりに留置場へ
護送の列車に訪ふ
【京都発】綾部の教主出口王仁三郎氏を訪ふべく記者は松江発八日午前九時十一分山陰線上り二〇八号列車に兵庫県豊岡駅から乗車した、たつた一輌の二等車のドアを拝して入ると車の中央に写真で見馴れた王仁三郎氏が茶羽二重の下着に例の特徴ある帽子をかぶつたまま巨躯を悠然と寝そべつてゐる、傍には警保局永野事務官、高橋京都府警察部警部をはじめ制服、私服の警官が物々しい警戒陣を張つて容易に話しかけることも出来ないのみか「今日は絶対にしゃべつて貰つては困る」と忽ち箝口令を布かれて沈黙のインタビユーを余儀なくされた、やや暫くして前に寝てゐた王仁三郎氏は起き直りふと記者の存在に気がつくや丁寧な黙礼を送つたが高橋警部に一言二言耳打ちされるや「ああ新聞記者か、わしは話すことはないよ」と如何にもうるささうに吐き出すやうにいふ、気のせゐか見れば心持ち憔悴してゐるやうだ、さすがに何処か落着きを失つて敷島を吸うたと思ふとお茶を飲みみかんを食べる、寝ころんで見たり起きてみたり、時に沈思黙考もするといふ御行儀の悪さ……沈黙列車の車内は車軸の音のみ徒らにやかましく列車が京都府下に入つて福知山駅に着くと北浦福知山署長、岡部京都府刑事課警部以下私服刑事数名がどやどや乗り込んで警戒一層厳重を極め最早何人も寄せつけない警戒振り、他の乗客が一人もゐない二等車には鋭い目がただぎらぎら輝くばかりだ、十一時四十分大本教発祥の地綾部に着ゐた、流石に感慨深げに車窓から外を眺める王仁三郎氏の目は言外に万感を述べてゐる、また亀岡駅通過の際車窓遥か天恩郷が視界に入ると幾百信徒の身に恩を馳せてゐるやう、王仁三郎氏は思はず滲み出る涙を手拭で押へつつまたも窓外を見やり何時までも何時までも走り行く天恩郷を見やる目──その目は余りにも雄弁に心境を語りつつ列車は一先づ京都へ向つた、かくて二条駅に近づくと鉄無地のお召に茶の羽織を着てマントにベロアの帽子といふ身支度を整へ午後一時廿五分警官の垣に囲まれて二条駅に降り直ちに府刑事課差廻しの自動車で中立売署に向ひ車中で痛めた足を引摺りながら十五年ぶりに思ひ出も悲しい冷い留置場の古びた柵内に姿を消した
甲府で信徒禁足
【甲府発】山梨県特高課では大本教本部の一斉検索で甲府市藤川町昭和神聖会その他大本教の外郭団体の信徒一千余名が綾部に急行せんとする形勢があつたので八日朝一斉に禁足を命じ厳重警戒中
議会解散を叫び請願の猛運動
遂に計画の実行化
正体を暴露された大本教の関東地方における本部は杉並区方南町の皇道大本紫雲郷別院でこれに付属する人類愛善会本部、昭和青年会、昭和坤生会(婦人部)及び別働隊である昭和神聖会等の本部が四谷区愛住町七六にあり市内各所に支部や出張所百三十余ケ所を設け東京における信徒の数を二万人といつてゐる、人類愛善会では機関紙人類愛善新聞を発行し現在廿五、六万を印刷し信徒に配布してゐる、昭和神聖会では昨年二月十一日全国に約十五万人の会員を有する昭和青年会、昭和坤生会及び右翼団体の一部を主体として結成されたもので大本教における行動隊であつて昨年の議会開会直前には議会解散請願の運動を起したことありその後におゐてもかなり激越な実行運動を計画し当局は同会の内状につゐて内偵を続けてゐたものであつた
検挙をよそに五周年記念
静かなる島根別院
【松江発】大本教島根別院五周年記念大祭は八日午前十時から県下の信徒昭和神聖会員のほか一般人千八百余名を迎へ盛大に行はれたが、松江署では別院内外に約五十名の制服警官を配置警戒した、大祭は出口澄子夫人が臨場し別院幹部も異状なく記念祭に次いで歌祭り神聖歌劇の催しがあつて教主不意の検挙に対し教主を慕ふ信徒達も何等の動揺も見せず祭事を執行してゐる
戒厳令下の亀岡町
家宅捜索続く
【京都発】八日朝四時半を期して行はれた亀岡町天恩郷の検挙は午前十一時ごろ一段落を告げ天恩郷内大祥殿に設けられた検挙本部では第二段の検挙につゐては小野、鈴木、三木、小田原、田辺各検事、西川予審判事、豊原警務課長、木下亀岡署長等が鳩首協議し一方月宮殿、高天閣、月照殿等の家宅捜索が続けられてゐるが天恩郷の各入口は正服警官が十数名づつ物々しく警戒し検挙隊以外の者の出入を一切禁止し記者の如きも警備警官の肩越しに内部の検挙状況を遠望するのほかはなかつた、検挙された皇道大本本部幹部並に日勤奉仕の信者達は亀岡署の楼上と武術道場に不安気な面持ちで収容されてゐるが未だ取調べに着手するには至らない、警察署と天恩郷の間に制私服警官の往来頗る頻繁で依然として亀岡町は戒厳令下の緊張に包まれてゐる
『夢のお告げ』
帰された教主夫人の話
【松江発】保護検束された松江署から八日午前八時市内北堀町赤山の大本教島根別院へ帰された教主夫人澄子さんは奥まつた一室で幹事にとり囲まれながら語る
何のことかさつぱり判らないので全く狐につままれたやうですがどんな事件のヒツかかりでせうか、何分信者が多いことだし大本教を傷つけようとする敵も少くないので或はそんな関係からではないかと思ひますが私としては財産も身体も投げ出して「ひのもと」のために働ゐてゐるので直接本部にかかはりがあるとはないと信じてゐます、実は二晩もつづけて信者が危害を加へる夢を見たといつてをられますが、それがお告げであつたのかも知れません
トラツクに満載
証拠品を押収
警視庁の大検挙
この日警視庁特高課は第一、第二両係を合せて約七十名を動員検挙に当つたが検挙された人物は
杉並区方南三一二紫雲郷別院から正宣伝使八級土居靖都、四谷区愛住町七六昭和神聖会本部から正宣伝使十級広瀬義邦、同会副統監出口宇知麿、小石川区原町一五一六宣伝使三級御田村竜吉、荏原区小山一九七正宣伝使十二級高川宅次、品川区上大崎二の五五九正宣伝使十級木村貞次、淀橋区戸塚町三の三一九総本部秘書米倉嘉平はそれぞれ自宅から検挙、四谷区愛住町三八ハウス・ハマ正宣伝使十一級葦原万象は京都の総本部に行つてゐることが判り直ちにその旨京都府警察部に手配、また宣伝使米倉恭一郎こと米倉範治は浦和市の自宅から同県警察部の手で検挙した
押収した物件は杉並の紫雲郷から日誌、会計帳簿及び刃渡り七寸余の短刀一口ほか多数の証拠書類を自動車に三台、また四谷区愛住町の神聖会本部からは出口王仁三郎全集、瑞祥新聞、真如の光、昭和の神国など著作物をはじめ写真帖フイルム五十巻、日本刀一口、木刀五本をトラツク一台に満載して引揚げた、東京市内における八日早暁の一斉検挙にもれた大本教正宣伝使深町霊陽氏は八日午前十一時靖国神社境内でお籠りをして引揚げるところを張込み中の警視庁特高課員のために検挙された、検挙者の身柄はそれぞれ所轄署に分割、留置したが両三日中にいづれも京都へ護送する筈
亀岡を過ぎる時は寂しさう
永野事務官談
【京都発】出口王仁三郎氏の引致を指揮するため松江市に出張し王仁三郎氏とともに京都に来た内務省保安課永野事務官は八日午後二時半京都府警察部長室で語る
私は関係者を調べはせぬが四、五日滞在し府特高課と協力して捜査を援助するつもりである、王仁三郎氏を連行する時は松江の別院に百名くらゐ信者がゐたが同氏は行けば判るから狼狽せずともよいと諭し、澄子夫人も例のあることだからと落着ゐたものであつた、途中は概ね雑談に過し事件の内容には触れなかつた、亀岡を過ぎる時は流石に寂しさうな面持で亀岡の町が視界から遠ざかるまで感慨深げに眺めてゐた
大阪でも警戒
【大阪発】八日朝行はれた大本教関係の一斉検挙は大阪府警察部では午前十時内務省警保局よりの指令に基き信徒及び昭和神聖会員の動揺を極力警戒することになり特高課岡田思想係長等が緊張してゐるが目下一名の検束もなく表面平静である